神隠しの言い伝え

公開日: 田舎にまつわる怖い話

田舎の風景(フリー写真)

ある日の夜、警察に連絡があり、村中の大人の男が集まって大捜索が行われた。

俺の親父も仕事から帰って飯も食べずに村の会館へ向かった。

母ちゃんは緊張した顔でどこかに電話していた。

親父が会館から帰って来て、

「うちに班の子供を集めることになった」

と言い、出て行った。

母ちゃんが強ばった顔で全ての部屋の電気を点けて回り、暫くして近所の子供と母親が集まって来た。

子供と言っても中学生も居たし赤ん坊も居て、俺の家が一気にパンパンになった。

田舎特有の広い十二畳の三つ居間が戸を外されて、三十六畳の大きな部屋が出来上がった。

各家から持って来た布団が敷かれ、子供らがそこに寝かされた。

部屋の隅に母親が三人座り、子供らを見守っていた。

俺は同級生の奴が居たから、そいつの隣に布団を敷いて暫くそいつとヒソヒソ話をしていた。

「居なくなった子って誰なんかな?」「じいちゃんが『神隠しやー!』って鎌を持って家飛び出してん」

そんな風なヒソヒソ話だったが、見張っていた近所の婆さんが近寄って来て、

「しゃべらんとけ!子供の声はよう通る!」

と、しゃがれた声で怒られた。

その日はなかなか眠れなかったけど、最後には寝た。

俺の村には昔から神隠しの言い伝えがある。

数十年に一度の周期で何人も子供が一晩で居なくなる。

変質者や事故などでは考えられないケースが多い。

昔から子供を数軒の家に分散し、集めて見張っていたが、見張りが一瞬目を離した隙に子供の数が半分になったという伝説もあった。

また、失踪した子供が見つかる場合もあった。

村は山の麓にあるのだけど、失踪した子供が山の中腹に数人倒れているのが発見されたケースもあった。

その日も大人の男は山を捜索していたそうだ。

次の日も昼夜捜索されたが、遺留品一つ見つからなかった。

その時は女の子一人が失踪し、20年経った今も見つかっていない。

これはつい最近親父に聞いたのだけど、江戸時代の大飢饉があった時に沢山の子供が村でランダムに間引かれ、その後から神隠しが始まったらしい。

初めは起きる間隔が短く失踪する人数も多かったが、段々間隔も長くなり人数も減って行ったらしい。

関連記事

山(フリー写真)

禁断の地

これは俺の祖父の父(曽祖父)が体験した話だそうです。 大正時代の話です。大分昔ですね。曾爺ちゃんを仮に「正夫」としておきますね。 ※ 正夫は狩りが趣味だったそうで、暇さえあれ…

沢(フリー写真)

晴れ着の女の人

元彼は中国地方の山合いにある集落に住んでいた。 水道は通っているけど、みんな井戸水を飲んでいるような、水と空気のきれいな所でした。 秋の連休に彼の地元を見に連れて行ってもら…

夜の山道

ヤマメ

あれは母の実家から帰る途中での出来事。 母の実家はG県の田舎で、夏はキャンプ、冬はスキーをする人が来るような山の中。 お盆の時期になり、母が祖父の家に帰るらしいので、3人で…

集落(フリー写真)

カガ(蛇)さま

医者だった祖父が、とある山中の無医村に赴任した時の話。 当時6歳だった俺は、祖父と祖母の家に預けられる形で、一緒にその村で暮らすことになった。 喘息持ちの俺の転地療法も兼ね…

冬の村(フリー素材)

奇妙な風習

これは私の父から聞いた話です。 父の実家は山間の小さな村で、そこには変わった習慣があったのだそうです。 それは、毎年冬になる前に行われる妙な習慣でした。 その頃になる…

畑(フリー写真)

人面芋

兄夫婦の嫁さんが教えてくれた話。 兄嫁(仮名・K子さん)のお父さんは、昔から農家をしている人だった。 農家というのは、幼い頃からお手伝いをさせられるから大変だったと、K子さ…

夜の山(フリー写真)

山の怪異

親父に聞いた話。 30年程前、親父はまだ自分で炭を焼いていた。 山の中に作った炭窯で、クヌギやスギの炭を焼く。 焼きにかかると、足かけ四日くらいの作業の間、釜の側の小…

つんぼゆすり(長編)

子供の頃、伯父がよく話してくれたことです。 僕の家は昔から東京にあったのですが、戦時中、本土空爆が始まる頃に、祖母と当時小学生の伯父の二人で、田舎の親類を頼って疎開したそうです。…

田舎の風景(フリー写真)

天神逆霊橋

そもそも『天神逆霊橋』というのは、神奈川の話ではない。 詳しい地名は失念してしまったが、東北の方のある村の話だった。 その村では悪さをする子供に「天神様の橋を渡らせるよ」と…

早死一族

うちの爺さんの親父だか爺さんだか、つまり俺の曾祖父さんだか、ちょっとはっきりしないんだけど、その辺りの人が体験したという話。 自分が子供の頃、爺さんから聞いた話。もう爺さんも死ん…