『Y』

公開日: ほんのり怖い話

郵便受け

ある日、私の一人暮らしのアパートの郵便受けに『Y』という名前が汚く鉛筆で書かれていた。

私の苗字のイニシャルは『Y』ではない。

不思議に思ったが、いちいち私の部屋の3階から消しゴムを持って来て消すのも面倒なので、そのままにしておいた。

それから一年ほど経ったある日、郵便受けに宛名なしの封筒が投函されていた。

文面は『あなたの行動に対し警察が動いています。そのことをよく理解してください』というものでした。

『何じゃこりゃ?』と思いながらも少し気味が悪くなったが、そのままにしておいた。

それから二ヶ月ほど経ち、学校から帰りくつろいでいると、ドアをノックする音がする。

友人が遊びに来たのかと思いドアを開けると、ちょっと格好良い男の人。

その男の人は開口一番「Yさんですか?」と言う。

「いや、違いますけど…新聞勧誘?(郵便受け見たのかな?)」

「いえ、実は…」

と、ここに来た理由を話し始めた。

その男性(Aさんとしておきます)は、一年程前(ちょうど『Y』と書かれたあたり)から、家や仕事場に嫌がらせの手紙や無言電話がひっきりなしにあるようになったらしい。

その手紙は私の家の住所から送られて来ており、差出人は『Y』とのこと。

私はもちろんそんなことはしていないので、誰か知らないうちに郵便受けに『Y』と書いたということ、私は『Y』ではないことを学生証を見せて説明した。

Aさんは警察に相談し、そして警告のために私のところに手紙を投函したそうです。

しかし腑に落ちないのは、私の家からAさんの家は10キロ以上離れているのに、何故私の住所を騙って手紙や電話をするのか、何故わざわざ私の家の郵便受けに『Y』と書く必要があったのか。

そして一番解らないのは、私のところに投函された手紙と全く同じ文面の手紙が、何故その後、Aさんの家にも投函されたのか、ということです。

後日談

半年ほど経ち、Aさんとは一回電話で話をしたのですが、その時はまだ犯人は判らないとのことでした。

相変わらず嫌がらせは続いている、と言っていました。

もう2年ほど前の話で、それ以降連絡は取っていないので、その後のことは知らないです。

地方出身の私にとって東京が何だか怖くなりました。

関連記事

天井(フリー写真)

遊びに来る友達

私が中学生の頃に住んでいた家での話。 私には四つ年上の兄が居る。兄には当時付き合っていた同い年の彼女が居て、家にもよく来ていた。 その彼女が来る予定の日、確か土曜日だった…

抽象的(フリー素材)

親父の予言

数年前、親父が死んだ。食道静脈瘤破裂で血を吐いて。 最後の数日は血を止めるため、チューブ付きのゴム風船を鼻から食道まで通して膨らませていた。 親父は意識が朦朧としていたが、…

登山(フリー素材)

謎の救助隊

登山サークルに所属していた3人の男性が、冬休みを利用してある山に登ることを決めました。 彼らのレベルではまだ早いと言われましたが、若さにかまけて無理やり登山を決行することにしまし…

プレゼント

中学生だった頃、いじめが原因で同級生が自殺した。 親の引っ越しか何かで転校してきた子で、性格もあまり明るい子じゃなかったから、すぐにいじめの対象になった。 そして、私も暗い…

病気がちの少女(宮大工5)

年号が変わる前年の晩秋。 とある街中の神社の建て替えの仕事が入った。 そこは、幼稚園を経営している神社で、立替中には園児に充分注意する必要がある。 また、公園も併設し…

エレベーター(フリー写真)

エレベーターの点検

俺はメンテナンス会社に勤めている。 客先の施設に常駐管理したり、不具合があると急行するなど、色々なパターンがある。 自分は巡回点検担当だが、夏休み期間中は普段受け持たない…

古民家(フリー写真)

トシ子ちゃん

春というのは、若い人達にとっては希望に満ちた、新しい生命の息吹を感じる季節だろう。 しかし私くらいの年になると、何かざわざわと落ち着かない、それでいて妙に静かな眠りを誘う季節であ…

飲み屋街(フリー写真)

仏壇の異変

叔母さんが久々に俺の家に遊びに来た時、つい先日見たテレビの恐怖特集の話になり、 「幽霊とか居る訳ねーじゃん!」 という会話をしていた時だった。 その叔母さんが、お客さ…

イタズラ好きな何か

子供の頃、イタズラ好きな何かと一緒だった。 見えなかったから何かの正体は最後までわからなかったけど、イタズラ好きなやつだった。 例えば、俺が誰かと並んで座ってたり歩いてたりすると、よく…

旅館(フリー素材)

お気遣い

私は趣味で写真を撮っています。 主に風景ばかりで、休みが取れた時は各地を回っているのですが、その時に宿泊した民宿での体験です。 ※ その日、九州の方に行っていたのですが、天候…