ロールプレイングゲーム

公開日: ほんのり怖い話

eac30040

ある小学5年生の男の子が、持病が悪化したため、1ヶ月間入院する事になった。

病室は4人部屋で、その男の子の他に、おばあちゃんとおじいちゃん、もう一人は同い年くらいの女の子だった。

男の子は人見知りが激しい上にとても照れ屋で、なかなかその同室の人たちと仲良くなれず、一人で勉強しているかゲームボーイで遊んでいた。

家から持ってきたゲームは既に一度クリアしたソフトだったが、暇なので毎日遊んでいた。

入院して1週間が立った頃、ゲームをやっていると同室の女の子がじーっとこちらを見ている事に気づいた。目が合うと女の子は慌てて逸らす。

『もしかしてやってみたいのかな?』と思った男の子は「良かったらこれ借そうか?」と聞いてみた。

すると女の子は目を輝かせて、とても嬉しそうな表情を浮かべ「いいの?」と答えた。男の子はゲームを快く貸してあげた。

しかし案の定、女の子は操作が分からず、男の子が操作を教えながら一緒にゲームを進めることにした。

そのゲームは仲間(パーティー)をつくる設定になっていた。

そこで、主人公に「たかし(男の子の名前)」、仲間に「ゆうこ(彼女の名前)」。

他の仲間には、それぞれ同室のおばあちゃんとおじいちゃんの名前をつけた。

それからどんどんその女の子と仲良くなり、2人でゲームボーイをやるだけではなく、色々な話をするようになった。

学校の事、家族の事、好きな音楽の事、近くに迫った夏休みの事…それからの時間はあっという間であった。

しかし、すぐに男の子が退院する時がやってきた。

看護師や同室のおばあちゃんやおじいちゃんたちが口々に「おめでとう」と言ってくれる中、彼女だけが泣いていた。

それを見て、男の子も泣きそうになった。

しかしグッと堪えて「オマエが退院するまでこれ借してやるよ。退院したら連絡くれよな」と言って、男の子はゲームを置いていった。

それから何度もお見舞いに行こうと思ったが、いざ行こうと思うとなにか照れくさくて行けなかった。

連絡がないまま1年半が過ぎ、男の子も小学校を卒業する頃になった。

せめて卒業前にもう一度会っておきたいと思い、意を決してお見舞に行く事にした。

病室に行ったが、彼女はいなかった。

病室の入口の名前欄にも彼女の名前はない。

『もうとっくに退院したのかな?』と思い、ナースセンターで聞いてみる事にした。

「ゆうこちゃんは遠い所に行ったよ」などとうまくはぐらかされたが、彼ももう小学6年生。大体のことは把握できた。

その場の空気や、後ろの看護師さんが泣き出したのを見ても明らかだった。

男の子がショックで呆然としてる中、その看護婦さんが「ああ、そういえばゆうこちゃんから、たかし君が来たら渡しといてって言われた物があるのよ」 と言ってそれを渡してくれた。

借してあげたゲームだった。

男の子はそれを受けとって家に帰ると、夕飯も食べずに暗い自分の部屋でゲームの電源を入れた。

懐かしいあのオープニング音楽。それと一緒にでてくるロード画面。

一つは彼女と男の子が一緒にプレイしたデータ。あの時からほとんど変わっていない。

懐かしさと悲しさで胸がいっぱいになった。

その時、見た事のない一つのデータに気づいた。

やたらとレベルの低いデータだった。『始めてすぐに飽きたか?』と思い、そのデータをロードしてみた。

パーティー4人の名前を読んで彼は声を失った…。

「かんごふ」

「さんにこ」

「ろされる」

「たすけて」

関連記事

異なった世界のスイッチ

アサガオが咲いていたから、夏の事だったと思う。 私は5歳で、庭の砂場で一人で遊んでいた。 ふと顔を上げると、生け垣の向こうに着物姿の見知らぬお婆さんがニコニコして立っている…

病院のベッド(フリー写真)

子供に視えるもの

旦那の祖父が危篤の時の話。 連絡を受けて私と旦那、2歳の息子とで病院に向かった。 もう親戚の人も来ていて、明日の朝までが山らしい。 息子はまだ小さいので病室にずっと…

団地

団地の謎のおばさん

母がまだ幼かった頃、一家で住んでいた団地での不可解な出来事です。 ある日、母と母の姉(私の伯母)が外で遊ぶために家の階段を降りていました。一階の団地の入口に、見知らぬおばさんが…

隙間見た?

子供の頃に姉が、 「縁側のとこの廊下、壁に行き当たるでしょ。あそこ、昔は部屋があったんだよ。 人に貸してたんだけど、その人が自殺したから埋めたの。 今はもう剥げてきて…

峠

イキバタ

友人は「俺って社会不適合者だよね!」と笑いながらタバコを吸う。 現在高校生やり直し中の通称「イキバタ」さん。行き当たりばったりを略しての渾名らしい。 俺はもう卒業したのだが…

湖(フリー素材)

白き龍神様(宮大工13)

俺が中学を卒業し、本格的に修行を始めた頃。 親方の補助として少し離れた山の頂上にある、湖の畔に立つ社の修繕に出かけた。 湖の周りには温泉もあり、俺達は温泉宿に泊まっての仕事…

アンティークショップ(フリー写真)

手裏剣と怪異

今から11年前の話です。 当時勤務していた会社の先輩で、何となく『そりが合わないな…』と感じる女性がいました。 新人だった私には親切にして下さるのですが、どこか裏があるよ…

満月(フリー画像)

天狗

35年前くらいの事かな。俺がまだ7歳の時の話。 俺は兄貴と2階の同じ部屋に寝ていて、親は一階で寝ていた。 その頃は夜21時頃には就寝していたんだけど、その日は何だか凄く静か…

みょうけん様

うちの地元に「○っちゃテレビ」というケーブルテレビの放送局があるんだが、たまに「地元警察署からのお知らせ」というのを流すんだ。 どこそこのお婆さんが山に山菜を採りに行って行方不明…

炎

火葬場の二組の骨

近所にある戸田火葬場の関係者から、ある驚愕の話を聞きました。 10年に1回程度、火葬中に突然、死者が一時的に生き返ることがあるというのです。 この現象は、極端な高温による…