お見舞い

千羽鶴(フリー写真)

俺は中学と高校の時、寮に入っていた。その時の出来事。

その寮では夜に自習時間というのがあり、自習は自習棟という、宿泊棟とは別の建物で行われていた。

ある日、Tという後輩が自習中、宿泊棟に忘れ物をしたので、こっそり取りに戻った時の事だ。

自習時間中は、宿泊棟の電気は基本的には点けてはいけないので、電気を点けずにTは宿泊棟に入って行った。

Tの部屋へ行くには、Jの部屋の前を通らなければならない。

Jはこの時、体を壊して入院をしており、寮には居なかった。

Tは自分の部屋へ行く途中、Jの部屋に人の気配を感じた。

人が居るはずのないJの部屋に気配があるのはおかしい。

そう思いながら、TはちらりとJの部屋に視線を送った。

すると、何とそこには、Jのベッドの上で帽子を被って正座をしている女の子が居た。

女の子が居るはずはなかった。ここは男子寮なのだから。

Tは慌てて逃げた、忘れ物も取らずに逃げた。

その後もJのベッドでは、帽子を被った女の子が何度か目撃された。

数日後、Jは退院して寮に戻って来た。

みんなは帽子を被った女の子のことをJに話した。お前の部屋には霊が居ると。

Jはそれほど驚くことなく、

「それは多分…」

と話し始めた。

Jの実家は開業医。

Jがまだ小学生の頃、風邪をこじらせて長期間、学校を休んでいたことがあった。

Jは自分の家の病院に入院し、数日が過ぎたある日、一人の女の子がその病院に担ぎ込まれて来た。

その女の子は交通事故に遭い、頭に深い傷を負っていた。

その病院は脳外科は専門外だったが、緊急ということで運ばれて来たという。

応急処置をして、専門の病院に移される間、ベッドが空いていなかったこともあって、Jの横のベッドにその女の子は運ばれて来た。

並んでベッドに横になる二人。

どれぐらいの時間が経っただろうか、Jは女の子の視線を感じた。

女の子の方を向くと、うつろな目でJをじっと見つめていたという。

Jは彼女が自分を見ていないことがすぐ分かった。

女の子の視線の先には、Jの為にクラスのみんなが織ってくれた千羽鶴があった。

Jは千羽鶴から一羽の鶴をむしり取ると、女の子のベッドに投げてやった。

女の子は特に表情を変えることはなく、うつろな目のままだったという。

暫くして、女の子は専門の病院に移されて行った。

そして、Jはその子が亡くなったことを後日知らされた。

「自分の部屋に来たのは、多分その女の子だろう」

と、Jは言った。

また入院してしまった自分を、応援しに来てくれたのだろうと…。

そして、帽子は傷を負った頭を隠すためだろうと。

その後、その女の子は二度と現れなかった。

この話を聞いて、お礼だったら寮ではなくJの入院している病院に行けば良いのに…と思ったりした。

関連記事

星を見る少女

夜、アパートに住んでいる青年がふと外を見ると、向かいのアパートのベランダに人がいる。 背格好からすると少女だろうか。少女はどうやら、空を見上げているらしかった。 なんとなく…

電車

消えた息子と不可解な出来事

1987年3月15日、兵庫県丹波市で平穏な生活を送っていた西安義行さんは、高校時代の友人であるSさんとドライブに出かけることになった。彼らは京都・舞鶴を目指して出発しました。 …

伊勢神宮参り(宮大工7)

オオカミ様のお社を修理し終わった後の年末。 親方の発案で親方とおかみさん、そして弟子達で年末旅行に行く事になった。 行き先は熱田神宮と伊勢神宮。 かなり遠い所だが、三…

駅のホーム(フリー写真)

同い年の父

今まで誰に言っても信じてもらえなかった話だけど、俺は同い年(当時27歳)の親父と話をしたことがある。 親父は俺が4歳の時に死んだのだが…。 俺が東京から実家に帰る途中の田…

バー(フリー写真)

見えない常連さん

俺が昔、まだ神戸で雇われのバーテンダーだった頃の話。 その店は10階建てのビルの地下にあった。 地下にはうちの店しかないのだけど、階段の途中にセンサーが付いていて、人が階段…

吹雪(フリー写真)

大型トラックの男性

親父から聞いた話です。 昔、親父が雪深い山の現場でバイトしていた時の事。 妻子を置いて季節労働に来ている男性が居て、皆から頼られるリーダーとして現場を仕切っていました。 …

ビー玉(フリー写真)

A子ちゃんの夢

ちょっと辻褄の合わない不思議な経験で、自分でも偶然なのか思い込みなのか、本当にそうだったのか自信がないのですが。 子供の頃、大人になっても憶えているような印象的な夢を見た事があり…

教室(フリー写真)

記憶にない女の子

このエピソードは、私の友人であるAさんが小学校6年生だった頃の出来事である。 ※ ある休み時間、彼女は友人とトイレでおしゃべりをしていました。 すると、トイレの入り…

呼び寄せられた仲間

僕が大学生のころ。あれは確か昭和63年12月の出来事でした。 同じ高校の友達と2人で神戸三宮に出ていたら、別の高校卒業以来の友達と出くわした。 「おお、久々じゃないか」となって…

古民家(フリー写真)

トシ子ちゃん

春というのは、若い人達にとっては希望に満ちた、新しい生命の息吹を感じる季節だろう。 しかし私くらいの年になると、何かざわざわと落ち着かない、それでいて妙に静かな眠りを誘う季節であ…