お見舞い
俺は中学と高校の時、寮に入っていた。その時の出来事。
その寮では夜に自習時間というのがあり、自習は自習棟という、宿泊棟とは別の建物で行われていた。
ある日、Tという後輩が自習中、宿泊棟に忘れ物をしたので、こっそり取りに戻った時の事だ。
自習時間中は、宿泊棟の電気は基本的には点けてはいけないので、電気を点けずにTは宿泊棟に入って行った。
Tの部屋へ行くには、Jの部屋の前を通らなければならない。
Jはこの時、体を壊して入院をしており、寮には居なかった。
Tは自分の部屋へ行く途中、Jの部屋に人の気配を感じた。
人が居るはずのないJの部屋に気配があるのはおかしい。
そう思いながら、TはちらりとJの部屋に視線を送った。
すると、何とそこには、Jのベッドの上で帽子を被って正座をしている女の子が居た。
女の子が居るはずはなかった。ここは男子寮なのだから。
Tは慌てて逃げた、忘れ物も取らずに逃げた。
その後もJのベッドでは、帽子を被った女の子が何度か目撃された。
※
数日後、Jは退院して寮に戻って来た。
みんなは帽子を被った女の子のことをJに話した。お前の部屋には霊が居ると。
Jはそれほど驚くことなく、
「それは多分…」
と話し始めた。
※
Jの実家は開業医。
Jがまだ小学生の頃、風邪をこじらせて長期間、学校を休んでいたことがあった。
Jは自分の家の病院に入院し、数日が過ぎたある日、一人の女の子がその病院に担ぎ込まれて来た。
その女の子は交通事故に遭い、頭に深い傷を負っていた。
その病院は脳外科は専門外だったが、緊急ということで運ばれて来たという。
応急処置をして、専門の病院に移される間、ベッドが空いていなかったこともあって、Jの横のベッドにその女の子は運ばれて来た。
並んでベッドに横になる二人。
どれぐらいの時間が経っただろうか、Jは女の子の視線を感じた。
女の子の方を向くと、うつろな目でJをじっと見つめていたという。
Jは彼女が自分を見ていないことがすぐ分かった。
女の子の視線の先には、Jの為にクラスのみんなが織ってくれた千羽鶴があった。
Jは千羽鶴から一羽の鶴をむしり取ると、女の子のベッドに投げてやった。
女の子は特に表情を変えることはなく、うつろな目のままだったという。
暫くして、女の子は専門の病院に移されて行った。
そして、Jはその子が亡くなったことを後日知らされた。
※
「自分の部屋に来たのは、多分その女の子だろう」
と、Jは言った。
また入院してしまった自分を、応援しに来てくれたのだろうと…。
そして、帽子は傷を負った頭を隠すためだろうと。
※
その後、その女の子は二度と現れなかった。
この話を聞いて、お礼だったら寮ではなくJの入院している病院に行けば良いのに…と思ったりした。