初恋のお兄さん

大きな木(フリー写真)

小学3年生の頃、当時9歳だった私は、学校で虐めに遭っていました。

幼なじみの友達はいたのですが、一人で過ごす方が楽に感じてきていました。

そんなある夏の日のことです。

公園のお気に入りの場所、大木の下で一人おやつを食べていると、学生服姿の男の人がやってきました。

学ランに学帽、黒の革靴に白手袋をはめていて、手には紙の箱を持っていました。

高校生のお兄さんと思ってぼんやり見つめていたら、その人は「隣、座っても良いかい?」と一言。

私は「どーぞー…」っと言って、ちょっとずれました。

お兄さんは紙箱から何かを取り出し食べ始めました。

それは紅白まんじゅうでした。

その後、そのお兄さんとは色々な話をしました。

お兄さんは頷いたり笑ったりして、私の話を聞いていました。

すっかり日も暮れた頃、お兄さんが「もう、帰るね」と言いました。

私が「明日もここに来る?」と訊ねると、お兄さんは「分からないね…」と答えました。

「お友達になろうよ」と、私が握手するつもりでお兄さんの手袋に包まれた手を握ろうとしたら、

「だめだよ!!」と凄くきつい一喝。

当時の私は腹が立って、その場を立ち去りました。

次の日に同じ場所に行きましたが、お兄さんはついぞ現れませんでした。

大人になってからふとこの事を思い出し、霊感の強い先輩に話したら、

「あんた、その人は優しい人だったんだね…。

もし、あんたがその手をつかんでいたら…連れて行かれる所だったよ。

そのお兄さんは、連れて行きそうな事を分かっていたから『だめだよ』と言ったんだよ」

とおっしゃいました。

どうやらそのお兄さんは、随分昔に亡くなっていたそうです。

格好良くて優しい学生さんでしたが、これが私の初恋だとは…。

関連記事

世にも珍しいポジティブな神隠し

日本のみならず世界の各所で起きる「神隠し」。 超自然的なものから人為的なものまで様々なものがあるが、基本的にネガティブなものである。 しかし、とある地方では世にも珍しいポジ…

犬(フリー写真)

お爺さんとの絆

向かいの家の犬が息を引き取った。 ちょうど飼い主だったお爺さんの一周忌の日だった。 お爺さんは犬の散歩の途中、曲がり角で倒れ込み、そのまま帰らぬ人となった。脳出血だったら…

彼岸花(フリー写真)

祖母の隠れ場所

自分が3歳の時に父方の祖母が亡くなった。 皆さんお察しの通り、人の死という現実の認識が出来ない子供の事です。 私はキャッキャッと親戚が居る中をふざけながら走り回り、それこそ…

田舎(フリー写真)

魚のおっちゃん

曾祖母さんから聞いた話。 曾祖母さんが子供の頃、実家近くの山に変なやつが居た。 目がギョロッと大きく、眉も睫も髪も無い。 太っているのだがブヨブヨしている訳でもなく、…

犬(フリー写真)

埋葬した子犬

心霊体験になるのか分かりませんが、子供の頃に不思議な経験をしました。 小学5年生の時、私は凄い田舎で暮らしていました。 小学校は統合され、登下校はスクールバスでないと通え…

病室(フリー素材)

絵日記

この前、夜遅くの深夜にハッっと起きてしまいました。 なんでいきなり起きちゃったんだろう…と思っていると、部屋の隅に何かの気配を感じました。 眼を凝らして見てみると、それは…

結婚式の席(フリー写真)

前彼の祝福

学生時代、彼氏を事故で亡くした。 私はそのことを引きずり、 「もう新しい彼氏も結婚もいらない」 と荒み、誘いも蹴り、告白も断り、おひとりさまの老後を設計していたのだ…

戦時中の軍隊(フリー写真)

川岸の戦友

怖いというか、怖い思いをして来た爺ちゃんの、あまり怖くない話。 俺の死んだ爺ちゃんが、戦争中に体験した話だ。 爺ちゃんは南の方で米英軍と戦っていたそうだが、運悪く敵さんが多…

坂道(フリー写真)

坂道と父

5年ほど前に父を亡くしました。 体を壊して働けなくなり、自棄になってアルコールやギャンブルに走って借金を作り、最後は 「飲んだら死ぬよ」 と医者に言われながらも、飲み…

ラーメン屋

ある大学生が買い物の帰り、小腹が空いたのでたまたま目についたラーメン屋に入った。 特に期待はしていなかったのだが、これが意外と美味くて彼はご機嫌だった。 帰り際に「おばちゃ…