沈まぬ太陽

公開日: 怖い話 | 異世界に行った話

th_IMG_1744

もう10年も前の話だが、裏の世界のようなものを見た事がある。

当時の私は友達のいないぼっち女子中学生で放課後や昼休みは学校の図書館で専ら読書に勤しんでいた。

小さい図書館だった為に1年くらい通うと興味のあった分野の本はおおかた読み尽くしてしまい、次はどの分野の本を読もうかと思案していると、1冊の本が目に入った。タイトルは「沈まぬ太陽」という本で、今でも忘れない。図書館の一番奥の本棚の、一番下の段に置いてあった。

本というよりは小冊子といった方が近いかもしれない。

表紙は太陽に月が溶かされ、下にある人間界と人間も溶かされているような絵だった。表紙を見た瞬間に絵が原子力爆弾を表しているのか?と考えたがそうでは無かったのだと思う。

内容もまた奇妙だった。

あるページには押し花がされていたり、あるページには文章で「太陽は沈まない。太陽が沈まないと隠れる事ができない」と書いてあったり、またあるページからは変な絵が延々と書かれていた。どのページの絵にも太陽は書かれていたが、1ページだけレモンがテーブルに乗っかっているだけの絵があった。

テーブルには「ようこそ」と書いてあった。

さらに気付いてしまった。その本はページ数が途中からバラバラだった。レモンの絵は真ん中にあったのにも関わらず1ページだった。

気味が悪かったのと、何か嫌な感じがしたので本を戻そうか迷ったが、好奇心には勝てずに本を読み進めた。

流石に破いて並べる訳にはいかないので対応したページを順に読んでいくと、レモンの絵はただの表紙であり、次のページから出てくる太陽が徐々に姿を変えて人間を溶かして、最後は太陽が人間の形になるという構図が完成した。完成したところで、だと思う。

遠くから何か叫ぶような声が聞こえて同時に周りにいた人達が私をジロジロ見ていた。目つきはなんだかギラギラしていた。

居心地が悪くなって私は図書館を後にした。

外に出るとなんだか空気が濁っている感じがした。普段は全くそんな事は感じないのだが。気にしすぎだと思い家までの帰路につくと、いつもと同じ道を通っているのに、見たこともないような景色が広がっていた。

無意識に進む。何故か不安感は無かった事を覚えている。

しばらく進むと見たこともないような防波堤で数人の釣り人が釣りをしていた。海は墨汁のように真っ黒、空は赤に近いピンク色だった事は覚えている。変な形の魚が釣り人のバケツの中を暴れまわっている。

釣り人は近付いた私に一瞬驚いたようだが一瞥くれるとすぐに釣りに戻った。

離れようとした時ボソッと声が聞こえた。

「喰われるぞ」

「え?」と言ったのも束の間、私はカラスのような鳥に手を突つかれた。同時に釣り人がバケツに入れていた魚を鳥に向かって投げた。

群がる鳥。

釣り人は、方角を指差すと「急げ」と。その方向に全力で駆け抜けた。途中一度だけ振り返ると、太陽が近づいて来ていた。釣り人や鳥、景色も蒸発していった。

そこで私は目を覚ました。

気付いたら病院のベッドの上だった。近くにいた看護師さんに話しかけるとすぐに医者を呼んでくれた。

話によると私は本を読みながら突然倒れ、1ヶ月まるまる病院で寝ていたそうだ。枕元にはクラスメイトが製作してくれた寄せ書きがあった。間も無く両親が到着して、2人とも号泣してしまい、宥めるのが大変だった。

後日談が3つある。

1つ目

裏の世界で助けてくれた釣り人は私が小さい頃に亡くなった叔父だった。
叔父と言っても遠くに住んでおり2度3度しか会ったことが無いそうだ。昔のアルバムに一緒に写っている写真があった。
それからは毎年必ず墓参りに向かい、墓前で近況報告を欠かさず行っている。

2つ目

裏の世界で鳥に噛まれた傷は現実にもあった。私は裏の世界を臨死世界だと最初は考えていたのだが、
だったら体に出た噛み傷はなんだったんだと今でも思う。
精神的に受けたと勘違いすると体には傷が浮かぶ事があると聞いた事があるがそれだろうか。ちなみに倒れた時には全く外傷は無かったそうだ。
全身を鳥に噛まれていたらどうなったんだろうと今でもゾッとする。

3つ目

実は私が気を失っている間に1人クラスメイトが自殺していた。

Kという男子で私とは殆ど関わりの無いいわゆる不良だった。周りの評判もあまり良くなかった。どう評判が悪かったかは割愛するが彼の寄せ書きには「沈まぬ太陽」という記述があった。彼が図書館で本を読んでいるところを見たことが無かったので驚いた。後日、読む気は無かったが学校の図書館でもう1度本を探してみた。本は無くなっていた。

その後で、Kと仲の良かったSに話を聞くと、Kは私が気絶する前に読んでいた本を読んで見たかったようだ。Sは止めたがKは聞かず、図書委員から聞き出して本を借りて行ったそうだ。だが読んだ時点では何も起きず、呪いの書と名付け、燃やしてしまったそうだ。

徐々にKはおかしくなっていき、最終的には首を吊って自殺したそうだ。寄せ書きはおかしくなる寸前に書いたものだった。

その後は何も起きることなく、普通に大学を卒業して今は普通に仕事をしている。読書は今でも大好きだ。ただひとつ作者不明の作品は読まなくなった。

関連記事

あなたが押したの?

少し困ってしまうことがありまして、ここに書かせてください。 5年前、私の友達が通っていた小学校で、陰湿ないじめがあったそうです。いじめの首謀者のM子さんは誰もが認めるほど容姿端麗…

神秘的な山

神隠しの山と消えた一家

平成14年9月7日、広島県世羅町京丸の名所「京丸ダム」にて、ある通行人が湖底に沈む車を目撃。警察へと通報が成された。 湖底から引き上げられた車の中からは、四人の遺体が発見される…

村はずれの小屋

じっちゃま(J)に聞いた話。 昔Jが住んでいた村に、頭のおかしな婆さん(仮名・梅)が居た。 一緒に住んでいた息子夫婦は、新築した家に引っ越したのだが、梅は「生まれ故郷を離れ…

古民家の居間

孤独

中島らも氏のエッセイで読んだ話。 新聞の投書欄に送られて来た独居老人の手紙です。 『定年で会社を辞めてから随分経つが、ここのところ出先から帰ると居間に自分が居る、というこ…

マネキン工場

幼い日、何てことなく通り過ぎた出来事。その記憶。 後になって当時の印象とはまた違う別の意味に気付き、ぞっとする。 そんなことがしばしばある。 例えば。 小学生の…

イタコ

以前、北東北の寒村に行った際にお寺のご住職夫人から聞いた話。 恐山のような知名度はないんだけど、彼の地にも古くから土着のイタコがいたの。 今も出稼ぎがある地だから推して知る…

酸素

悪行の報い

2年前、私が特別養護老人ホームで介護職員として働いていた時の話です。 この施設は非人道的な職場でした。老人たちを物のように扱う職員が多く、食事に薬を混ぜる、乱暴な入浴介助、抑制…

封じ(長編)

アパートに帰り着くと郵便受けに手紙が入っていた。色気のない茶封筒に墨字。間違いない泰俊(やすとし)からだ。 奴からの手紙もこれで30通になる。今回少し間が空いたので心配したが元気…

気持ちの悪いスナック

7年くらい前にタクシーの運転手さんに聞いた話です。 当時、六本木にある会社に勤めていましたが、結構夜遅くなることが多かったんですね。 当然終電はなく、タクシーで帰ることにな…

雑木林(フリー写真)

陰から覗く女の子

後輩に聞いた話。後輩は四人兄弟で、体験したのは一番上の兄貴。 その兄貴が小学校低学年の時の話です。 その日、兄貴は友達数人と近くのグランドで野球をして遊んでいた。 …