お屋敷の物品回収

お屋敷(フリー写真)

古い物を家主の居なくなった家から回収し、業者に売りに出す仕事をしています。

一般の人から依頼があって回収する事もあるし、解体業者からお呼びが掛かって現場へ出向く事もあります。

その日は、知人の親戚の家が誰も住まなくなって十数年放置されているので取り壊す、その前に空き家に残っている物を整理してくれないか、という事で現場へ向かいました。

福岡市内から車を1時間半ほど走らせた山間の集落で、人の気配はあるのですが、過疎が進んで他にも空き家が目立ちます。

かなり大きい屋敷のような家だと聞いていたので、その日は友人の息子であるT君に、アルバイトで付いて来てもらいました。

屋敷は多くの家々が集まる場所から少し離れた、坂を上った所にあります。

辿り着くまでに道が細くなるので、坂を上る前の砂利を敷いたスペースに車を停め、歩いて屋敷へ向かいました。

3分ほど私道を歩いて見えたのは、やけに縦に長い平屋で、山間のこの村に何故この形の家を建てたのか若干疑問に思いました。

鍵で玄関を開き、取っ掛かりとして埃と湿気を払うために、屋敷の窓をT君と手分けして開ける事にしました。

幾つかの窓を放って行くと、幾つかの窓に鍵が掛かっていない事に気付いて、まあ田舎だし場所が場所なので…と思い、その時は大して気に留めませんでした。

手前の部屋から順に窓を開きながら奥の部屋へと進んで行くと、奥の方で誰かが話すような声、と言うか気配を感じました。

一瞬、T君が僕に話し掛けたのかと思い、位置を確認したら全く違う場所に居ます。

気のせいかと思い更に奥の部屋へ進んで行くと、廊下のある部分を境に、床材が古いものに変わりました。

どうやらこの縦に長い家の造りは、増築によって出来たもののようです。

そして一番奥の部屋に辿り着いて引き戸を引こうとすると、一瞬ドアが開き、すぐさま誰かが内側から強い力で引っ張って戸をバタンと閉めました。

空き家と聞いていたので唐突な出来事にパニックになり、

「誰か居ますかー?」

と聞くと、

「%$@’%$^&#$!!!!!$#&%^@%’$&!!!#%&$^&’@!!!」

という聞いた事の無い、まるで唸り声のような、人が発したとは思えない獣のような返事が返って来ました。

それに中でどたばたと暴れているようで、何かが壊れる音が聞こえて来ます。

恐くなってT君の方を見ると、彼もその声を聞いたらしく顔面が真っ青になっていました。

そして手を顔の前でパタつかせ、ジェスチャーで『もう帰ろう、ここから出よう』という意思を表しました。

慌てて玄関を出て、鍵も掛けずに私道を走ると、後ろから再度、

「%$@’%$^&#$!!!!!$#&%^@%’$&!!!#%&$^&’@!!!」

という声が聞こえて来ました。

ドタバタという音も聞こえて来て、竦む足をもつらせながらも何とか車まで辿り着き、その場を立ち去りました。

車で途中の道の駅まで行き、T君とさっきのは一体何だったのかと話し合いました。

言葉を発していたので人間なのは間違い無いのですが、言葉も通じないし、扉を引っ張った時の力はとても村の老人とは思えない。

結論は出なかったのですが、仕事で依頼のあった事なので扉を開けっ放しで出て来たのはまずいと思いました。

まだ恐かったもののそこは社会的責任感で、扉の鍵と窓を閉めるためにもう一度屋敷へ向かいました。

恐る恐る扉を開けて入り、なるべく音を立てないようにそっと窓を閉めて回りました。

そして、最後に奥の部屋をもう一度確認しようとすると、さっきあったはずの扉が無い…。

廊下が途中で終わり、壁になっている。

壁の下の方に目をやると、何かがじわりと壁から染み出した跡がありました。

T君と顔を見合わせ、そそくさとその屋敷を出ました。

もしあの扉の向こうに入っていたら、どこに繋がっていたのでしょうか。

関連記事

ちょっとだけ異空間に行った話

ドラッグか病気による幻覚扱いにされそうだけど、多分、ちょっとだけ異空間に行った話。 就活で疲れ果てて横浜地下鉄で眠り込んでしまった。 降りるのは仲町台。夕方だったのに、車掌…

酸素

悪行の報い

2年前、私が特別養護老人ホームで介護職員として働いていた時の話です。 この施設は非人道的な職場でした。老人たちを物のように扱う職員が多く、食事に薬を混ぜる、乱暴な入浴介助、抑制…

夜のコンビニ

暗闇の隙間

昨年の夏休みの夜のことでした。 深夜、ふと小腹が空いて、コンビニへと向かうため、いつもと変わらぬ道を歩いていました。 その途中、ふと、ビルとビルの間に幅およそ1メートルほ…

山を穢した代償

以前に住んでいたマンションの大家さんは、御主人が亡くなったのを機に田舎の土地を処分し、都会にマンションを建て息子夫婦と同居した。 老女は何かと話し掛けてくれ、俺も機会があれば田舎…

暗い夜道(フリー写真)

ヤモリ女

あれは大晦日のことでした。 深夜、煙草を買いに行こうと少し離れた場所にあるコンビニへ出向きました。 私の住んでいる所ははっきり言って田舎なのですが、昔は街道筋だったので、狭…

学校の校舎

出口のない街

俺のクラスに、ある日ひとりの男子が転入してきた。 彼はいつも机に突っ伏していて、クラスの誰とも会話を交わそうとせず、まるで存在を消すかのように日々を過ごしていた。 友人も…

花(フリー素材)

いっちゃん

妹の話。 妹が5歳、自分が7歳の時、伯父が遊びに来た。 伯父を見るなり妹は、 「がしゃーんがしゃーん、イタイイタイの伯父さん」 と言い出した。 伯父も両親…

廃墟

消えた声、風の中から

高校2年の夏休みのことだった。 霊の存在など信じないと豪語していた友人が、地元で“出る”と噂されていた廃屋に、ひと晩ひとりで泊まってみると言い出した。 その日の昼間、彼は…

電車のホーム

死の影を背負う友人

私には昔からの友人がいて、彼は異常なほど頻繁に死体と遭遇します。中学時代、私たちが海で遊んでいるときに水死体を発見したのが最初です。その時点で彼はすでに5回も死体を見ていたと言ってい…

住宅街

時空を超えて

私が高校生の頃の体験です。その日は友人と遊んだ後、家(一戸建ての3階)に帰り、リラックスしていました。ベッドに横になり、伸びをしていたその時、目を開けると、突然周囲の景色が変わってい…