消えた同級生

教室(フリー素材)

小学2年生の時の話。

俺はその日、学校帰りに同じクラスのS君と遊んでいた。

そのS君とは特別仲が良い訳ではなかったけど、何回かは彼の家にも遊びに行ったし、俺の家に招いたこともある。親しい友人の一人だった。

俺達はある人気の無い、古いアパートの敷地内に居た。

アパートの一階部分の横並びのドアの前に敷かれたコンクリの歩道の上に座り込み、何かの遊びをしていた(何をしていたかははっきり思い出せず)。

しかし暫くすると俺は、アパートの二階の部分に何かあるような気がし始め、それが気になって仕方なくなってきた。

そんな中、S君が「上(二階)…何だろう?」とポツリと言った。

変な気分がしたのは俺だけではなく、彼もその得体の知れない雰囲気を感じ取っていたのだ。

二人ともどうしても二階が気になり、S君は「ちょっと見に行ってみよう」と言って立ち上がった。

S君がカンカンと音を立てながら、壁伝いに設けられた鉄の階段を昇って行き、その後を俺が付いて行く。

S君が階段を登り切って、二階の廊下を曲がり見えなくなったその瞬間、俺は階段の途中で立ち止まってしまった。

特に異変が起こったという訳でもないが、俺の体の中で警笛のようなものが激しく鳴り響いた。

『立ち止まれ!』と、俺自身の体の中の何かが強く命じて来るような感じだ。

暫くそうして階段の途中で立ち止まったままだったが、S君が戻って来ない。声もしない。

俺はやはり二階に行こうかと階段を再び昇り出そうとしたが、体が動かない。

金縛りのような身体的感覚ではなく『絶対にそれ以上進んじゃダメだ!!』という強い精神的な感覚に襲われたのだ。

俺は怖くなって、そのままS君のことを無視して家に帰ってしまった。

次の日、学校にS君は来なかった。

俺は一晩経って恐さが薄れてしまったし、子供の短絡的な頭脳。

その時は『風邪か何かで休んだんだろう』くらいにしか考えていなかった。

しかし一週間経ってもS君は来ない。流石に『どうしたんだろうか…』と気になり始め、クラスメートに「Sどうしたんだろうね?」と聞いてみた。

だが、聞かれたクラスメートは「Sって誰?」と不思議な顔をした。

誰に聞いても同じで、S君のことなど知らないと言う。

そう言えば担任も、休んでいるににも関わらずS君のことなど口にしていないし、S君が座っていた机には他の奴が座っている。

家に帰って母親に「Sが学校に来なくなったんだよ」と話してみたが、母親も『誰なの、その子?』という表情。

「前に家に連れて来たでしょ?」と言っても、全く覚えていないと言う。

小学生の俺は、時間の経過と共に大の仲良しという訳でもなかったS君のことなど次第に忘れて行き、そのまま小学校を卒業した。

しかし中学生になったある時、ふとS君のことを思い出した。

『彼、どうしたんだろう?』と気になり始め、何人かの友人にS君のことを聞いてみたが、やはり誰も知らない。

問題のアパートはもう取り壊されていて、その一帯はダンボール工場の倉庫になっていた。

S君の家を見に行ってみようと思ったが、途中までの道筋は思い出せても、どうしても詳細な位置が分からない。

家にあった小学校の卒業アルバムも見てみたが、巻末の住所録にもS君の名前は無い。

どうしようもない不安に駆られ、俺の家のアルバムも引っ張り出し、小学校の頃の写真を探索。

しかしそこにもS君の姿は無い。小学2年生の春に行った森林公園の遠足の集合写真にもS君が居ない。

その遠足では、森林公園の中の立ち入り禁止の区域にS君ら数人と入って、担任にこっ酷く怒られた記憶が確かにあったので、間違いなくS君はこの集合写真に居るはずなのだけど…。

現在になってもS君のことを時々思い出すけど、全く不可解でならない。

確かに俺の記憶の中にはS君は実在した。顔も覚えているし、数回遊んだこともある。それらは現実の世界の出来事だったと断言出来る。

一体、S君はどこに行ってしまったのか?

何故、みんなの中からS君の記憶が消滅してしまったのだろう…。

今でもこのことが本当に恐ろしくて仕方がない。

関連記事

お墓参りで使用する水桶(フリー写真)

お墓を広くすること

実家は山の中にある田舎なのだが、近所に見栄っ張りで有名な家族が居た。 特におばあさんが見栄っ張りで、息子や孫の自慢話ばかりすることで、近所から嫌われていた。 ある日、そのお…

プルタブ(フリー素材)

不思議なプルタブ

小学5年生の夏、集団旅行に行った帰りの事。 貸し切りの電車の中、友人と缶ジュースを飲みながら雑談していた。 私はスポーツ飲料を飲み干し、その缶を窓辺に置いて網棚の上から荷物…

無人駅

見知らぬ駅

今でも忘れられない、とても怖くて不思議な体験。 1年と半年ほど前になるでしょうか、私がまだOLをしていた時の話です。 毎日毎日、会社でのデスクワークに疲れて、帰りの電車では…

自衛隊での体験談

ちょっと専門用語が多いので分かり難いかもしれない。 高校卒業後すぐに自衛隊に入隊した俺だったんだが、7月の後期教育のある日、駐屯地にある小さい資料館の掃除があったんだ。 班…

トンじい

私の出身地は、古くから部落差別の残る地域でした。 当時、私は小学生でした。部落差別があると言っても、それは大人の世界での話で、幼い私には差別など解りませんでした。 子供同士…

中古のナビ

8年くらい前の体験を書いてみるよ。 中古車屋で店長をやってるダチがいるんだけど、そいつから中古のナビを安く買ったんだ。 ちゃんと名の知れたメーカーの、後付けでダッシュボード…

ごぜさんの鐘

辺り一面山だらけ、どこを見渡しても山ばかりという地方の出身です。 小さい頃からお世話になっていたお寺に「鐘」がありました。 「鐘」と書いたのには理由がありまして、それは布と…

夕日

回転する毛の塊

中学生の頃、家が近いということもあり、毎日のように学校から一緒に帰る友人がいた。 私は女で、その友人も同じく女の子。名前はユキ。小さな頃からの幼馴染だった。 中学校から自…

雷(フリー写真)

記憶の中の子供達

私は子供の頃、雷に打たれた事があります。 左腕と両足に火傷を負いましたが、幸いにも大火傷ではありませんでした。 現在は左腕と左足の指先に、微かに火傷の跡が残っているまでに回…

渓流釣り(フリー写真)

一人で泳いでいる男の子

去年、梅雨の終わり頃に白石川へ渓流釣りに行った時の事。 午前4時くらいに現地に到着して準備を終えました。 そして川に入ろうとした時に、川の方から子供の声が聞こえるのです。…