逆テケテケ
公開日: 都市伝説
もう十年程前、僕が住んでいる市の小学校で『逆テケテケ』というローカル都市伝説が流行ったことがあります。
それはみんなが知っているテケテケとは全く違う話で、市内のどこかの踏切に雨の降っている夜中にだけ現れ、遭遇すると何かがあるというものでした。
当時、その市内の小学校で非常勤教諭をしていた僕は、担当していた子供達からその話を聞きました。
随分変わった怪談話もあったものだと、その時は聞き流していました。
※
ある夜のことです。
隣の市で担当学科の講習会があり、雨が降っていたため、いつもは通らない道を歩いて帰っていました。
教材や荷物が重く、リュックサックを猫背気味に背負い、傘を深く差していました。
住宅地だから入り組んでおり人通りもなく、灯りも少ない、とても視界が良いとは言えない道でした。
トボトボと歩いていると、前から女性の足が歩いて来ているのが見えました。
大の男ですが小心者の僕は、やっと通行人に遭遇して安心しました。
しかし足が近付いて来るにつれ、何か違和感を感じます。
結構な土砂降りにも関わらず、その足は長靴どころか、靴などを何も履いていなかったのです。
裸足の女性が歩いているとなると、何か暴行でもされたのかと思い、僕は声を掛けるために傘を上げました。
するとその足は見えなくなってしまいました。
見間違いかとも思ったのですが、確かにその足は右、左と交互に動き、きちんと歩いているように見えました。
少し不安な心持ちのまま角を曲がり、踏切を渡り、川を跨ぐ大きな橋まで黙々と歩きました。
途中どうしても怖くなってしまい、ヘッドホンを取り出し音楽を聴きました。
確か外国の女性歌手の楽曲をリミックスしたものだったと思います。
エフェクトが多用され明るい音調だったので、先程の件は気にはなっていたものの、それほど不安は感じていませんでした。
※
橋の中頃に差し掛かると、右手後方から女性のものと思われる甲高い咳が聞こえました。
大荷物だし通行の邪魔になったのかと避けましたが、暫くしても誰も横切らないので振り返りました。
しかし女性はおろか誰も居ません。
見間違いに聞き間違いかと訝しんでいるところに、今度はヘッドホンの右側から含み笑いが聞こえてきました。
こんな時に怖いエフェクトだなあ…と半ば無理矢理に思い込んでいると、音楽はブツッと音を立てて切れました。
そして両耳からとても明瞭な女性の声で、
「私のこと知ってる?」
いくら何でも恐ろしくなって、ヘッドホンを外し傘を捨て、大声を上げながら全力疾走しました。
不審だったようで通りすがりの警察官に声を掛けられ、そのまま交番で保護してもらいました。
※
翌朝、学校の図書室でテケテケについて調べました。
『テケテケは、踏切で電車に轢かれ足を切断された女の子が人々に語り継がれるうちに妖怪化してしまったもの。
都市伝説がなくならない限り成仏出来ない妖怪で、姿は足のない髪を振り乱した女。テケテケとしか喋れない』
と書いてありました。
全く違う性質を持つ『逆テケテケ』というあのローカル都市伝説に、僕は遭遇したのかもしれません。
以上、散文失礼しました。