氷室で一人と数えられた夜
深夜の品出しのアルバイトで、俺と先輩は同じ紺のエプロンを着て、地下に残る旧魚市場の氷室へ降りた。だが石段を上がってきたのは一人だけだった。顔を笠で隠し名前も呼ば…
深夜の品出しのアルバイトで、俺と先輩は同じ紺のエプロンを着て、地下に残る旧魚市場の氷室へ降りた。だが石段を上がってきたのは一人だけだった。顔を笠で隠し名前も呼ば…
怖い話。深夜に取材音源を文字起こしする四十代のライターが、二人だけのはずの対談に低く混じる三人目の声に気づく。相づちはやがて録音の中の会話ではなく、いま聞いてい…
三十二年前の初冬、京都の古書店を訪れた白髪の老人が一冊の和綴じ本を置いていった。不思議な話だと思いながら棚の奥に仕舞い続けたが、三十年後のある日、その本に縁のあ…
引っ越した翌月から、毎晩午後11時に隣の部屋からピアノの音が聞こえてくる。でも管理会社に確認すると、その部屋は2年前から空室だと言う。そして朝、部屋の内側に一本…
中小IT企業の受付として働く私の元に、昼休み明けだけ鳴る謎の内線があった。昭和五十三年入社の田中さんを呼ぶ、穏やかな男の声。三年経ったある日、その声が私の名字を…
祖父の七回忌で帰省し、遺品整理をしていると古い連絡帳が見つかった。亡くなった人の名前に命日が書き込まれていた。そして最後のページには、自分の名前があった。…
転勤で引越した先の自治会に参加した私。公民館の一番奥の席に、毎回同じ老婦人が静かに座っていた。誰も彼女のことを話してくれない。その理由に気づいた時、背筋が冷えた…
廃線になった長野の山間部の駅跡を取材した写真家が出会った老人。宿で写真を確認すると、老人の影だけが最初から写り込んでいて、しかもその影の向きが太陽と逆方向だった…
転職先のデスクの引き出しに残っていた一枚の付箋。「次の人へ」と書かれたその下には、五つの項目があった。最初は引き継ぎメモだと思っていたが、項目は次々と現実になっ…
仕事の疲れで訪れた山間の温泉旅館。女将はチェックインで「お帰りなさいませ」と言い、引き出しには私の好みを記したメモが。翌朝、女将が言った「夜のお散歩が恒例でいら…
昭和六十年の夏、川原に建つ見世物小屋で木戸番をしました。祖父に言われたのは、釣りを先に渡せという一言だけです。幕の内から響く拍手、濡れる地面、減っていく矢印、十…
町に出回った一枚のチラシが、パンは危険な食べ物だという奇妙な統計を並べていた。母が、隣人が、商店街が少しずつ変わっていく。数字の正体に気づいたとき、本当の目的が…
念願の新居で開いた引っ越し祝い。撮った記念写真の押し入れの隙間から、青白い顔の見知らぬ女が私たちを覗いていました。怯えて訪ねた霊能者は「これは心霊写真ではない」…