戦時中の校舎

戦時中の校舎

10年前の夏休み、母と一つ上の姉と共に母方の実家に遊びに行った。

そこは集落から少し離れた山の麓にあり、隣の家まで行くのに5分は歩くような場所だった。

当時、私たち姉弟の間で『学校の怪談』が流行っていたので、姉と密かに母の母校である小学校を探検しに行く計画を立てていた。

以前、婆ちゃんと姉と山にゼンマイを取りに行った時に小学校の近くまで行ったので、今回もその山道を通る事にした。

道路を通って行くことも出来るが、山道を利用すると往復しても1時間程度しかかからない。

当時から過疎化・高齢化が進んでいる地域で、山は荒れ、草木はのび放題、墓らしき岩や古い鳥居に小さな社のようなものもあったが、誰も掃除していないのか荒れ放題だった。

山道を無事抜けると山の中腹に目的の小学校があった。その小学校は道路に背を向けた形で1階建ての校舎が建っており、校舎の目の前に小さなグラウンドがあった。

グラウンドの先はなだらかな山の斜面になっており、その下には集落と田んぼが広がっていた。

この集落の子どもがこの学校に通い、その中には母の同級生もいたんだなあ、とか姉と話しながら山道から道路に出た。そこで少しの違和感に気付く。

小学校に隣接するように舗装された道路があるはずなのだが、以前の記憶と違い舗装が施されていなかった。私は妙な感覚に襲われ怖くなり、姉に

「お姉ちゃん、何か変じゃない?」と聞いたが、姉は

「勘違いでしょ」と適当に流して気にも留めていないようだった。

私と姉は校門を抜けて小学校の敷地内に足を踏み入れた。

グラウンドは思ったよりも綺麗に整備されてるようだったので、取り敢えず大きく一周して全体を見ることにした。

グラウンドを4分の1周くらい回った頃か、校舎の窓ガラスから中の様子が見えた。

すると、中で子供たちが椅子に座り授業を受けているようだった。

女の子はみんなおかっぱ、男の子はみんな坊主頭だった。

私は妙な感覚に襲われ怖くなり、姉に

「お姉ちゃん、そろそろ帰ろうよ」と言ったが、姉は

「どうせ村の行事でしょ、行けばお菓子くらいもらえるかもよ♪」と全然気にしていないようだった。

グラウンドを一周した後に目的の校舎の中を探検しようという事になったのだが、私はさすがにこれはヤバいと思い、姉に帰るように必死に説得した。

姉も少しの違和感を感じていたのか、渋々ではあったが了解して帰路についた。

実家を出てほんの2時間くらいの出来事のように感じたが、家に着いた時は僅か30分しか経っていなかった。

母の実家に帰った後、母に直接聞いてみた。小学校の道路は舗装されているか。村の行事に小学校は利用されているか。

すると母も何か変に思ったのか、見たものを詳しく話すよう言ってきた。

私は母の母校へ山道を通って行ったこと。道路が舗装されていなくて違和感を感じたこと。小学校の下に集落、田んぼが広がっていたこと。校舎内に子供たちが大勢いたこと。みんな昔の髪型だった事。

一方、姉は叔父が置いて行ったゲッターロボを読んでいた。

母の回答は、思ったよりもショックなものだった。

母が子供の頃から道路は舗装されていたこと。小学校の下に集落は無く、野原だったこと。村の行事には利用されていないこと。坊主の男の子は多少いたが、おかっぱ頭は殆どいなかったこと。校舎は2階建てだったこと。

私も母も腑に落ちなかったので爺ちゃんに話してみることにした。すると爺ちゃんは立ち上がり、古いアルバムを持って来た。

「これか?」と爺ちゃんの指先にあった白黒の古い写真には、先程見た校舎が写っていた。それから爺ちゃんは、まだ若かった頃の話をしてくれた。

昔はあの周りは集落になっていて、爺ちゃんも小学校の下から通っていた。

あの頃は集落の友達と山や川で遊び、それはそれは楽しかった。第二次世界大戦が起こり、爺ちゃんや友達も参加しなければならなかった。

戦争の影響で小学校や集落が焼けてしまい、戦争で友達は殆ど死んでしまった。それでも無事に帰ることができたおかげで母が生まれた。

あれから何十年も経って、今では当時の友達はみんな逝ってしまった…と。

話しているうちに爺ちゃんは涙を浮かべていた。そして私に笑顔でこう言った。

「お前が見た子供の中にな、俺の友達がおったのかもしれん。ああ、俺も会いたかったなあ」

その爺ちゃんも先日逝ってしまった。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

怖い話・異世界に行った話・都市伝説まとめ - ミステリー | note

最新情報は ミステリー公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

糸と縫い針(フリー写真)

祖母の糸切りばさみ

20年程前の話。田舎で祖母が亡くなった時のこと。 母方の実家は地元では名士で、医者でも教師でもないのに、祖父は周りから先生と呼ばれていた。 そういう人なので、あちこちに愛人…

廃墟

廃屋の歯の謎

高校生の頃の話です。実家で犬を飼っていました。弟が拾ってきた雑種犬です。 その犬を2年ほど飼っていると、家族の一員のように感じるようになり、私も時々散歩に連れていました。 …

マトリックス空間

宇宙は数字で織りなされる

不思議な体験をした。 簡単に説明すれば、幽体離脱をして宇宙を覗いたとき、螺旋状に永遠に伸びる、うねうねとした膨大なカラフルな数字から成る道を、高速スピードで飛んでいた。 …

切り株(フリー写真)

植物の気持ち

先日、次男坊と二人で、河原に蕗の薹を摘みに行きました。 まだ少し時期が早かった事もあり、思うように収穫が無いまま、結構な距離を歩く羽目になってしまいました。 視線を常に地べ…

夜の街並み

エレベーターの歪み

今日、信じがたい体験をした。 早めに仕事が終わったので、行きつけのスナックで一杯飲もうと思い、そのスナックがある雑居ビルのエレベーターに乗った。僕は飲むときの出費を決めておく癖…

列車の模型

時空を超えた旅路

5年前、私は大学1年生のとき、突如重い精神病に襲われました。始めは単なるやる気のなさと思われたものが、次第に人混みや大学構内での幻聴へと発展し、聞こえるはずのない耳障りな悪口が私の日…

イタチの仕業

祖母の葬式の晩の事。 田舎の古い屋敷で壁3面ガラス張りの小さな和室に1人だった。長い廊下の突き当たりの座敷には祖母が安置されていた。 裏の山には江戸時代からの一族の墓が並び、近くの公園…

お葬式

数年前、深夜の0時頃に、その頃付き合ってたSから電話が掛かってきた。 切羽詰まったような声と口調で、話の内容がいまいち理解出来ない。 外にいるみたいなので、取り敢えず家まで…

最強の守護霊

僕の知り合いに御祓いの仕事をしている人がいる。 知り合いというか、最寄り駅の近くの立ち飲みで出会ったおばさん。 それが今から数えて7年前くらいかなと思う。 引っ越して…

時空の狭間の少女

これは俺が保育園に通っていた時の話。 俺が住んでた町には第一から第三まで保育園があり、俺は第一保育園に通っていた。 ある夏の日、合同お遊戯会の劇の練習で第一保育園の園児が第…