幸福の妖精

公開日: 不思議な体験

wallpaper165_640_1136

リクルートスーツを見る季節になると、毎年思い出すお話。

俺は就職活動してた。バブル崩壊後の冷や水ぶっかけられた氷河期世代あたりだと思ってくれ。俺は理系で一応研究職希望だったけど、求人自体がほとんどなくて、滑り止めに受けた営業や販売すら落ちまくりだった。

そんな中で、一つだけ最終面接まで進んだ会社があった。

ノルマなしの営業。しかも待遇がめちゃくちゃいいところだった。OBも「お前が来たいなら採用出してもらう」と協力的。

そのOBから最終面接の前の日に「お前は合格確実、ていうか合格決定だから。一応面接だけ受けて貰ってから入社承諾書に判子持って来い」と連絡もらった。最初は滑り止めって思ってたけど、他は全然受かんないし、こんなに熱心に誘われたらどんどん気持ち傾いて、本当に承諾書出されたら、判子捺して入社しようかなと思ってた。

最終面接の日、控え室で待機してると、四十過ぎくらいのおっさんが入ってきた。

最初、会社の人かな?と思ったら、受験者みたいな素振りで俺の隣にどかっと座った。そしていきなり場を弁えず、大声で俺に話しかけてきた。

面接の待機中も社員から見られてるなんて常識だから、びびって最初は諌めたり無視したりした。でもおっさんは何も気にしないで、

「この会社、きれいなのは見えてるところだけだぞ!」
「トイレとかすげー汚かった!この会社もうダメだな!」
「あと(会社の商品)もだめだ。もうここは先無いぞ!」

周りもちらちら見るだけで助けてくれない。

俺がいや…あの…とかろく返事もできないでいると、大声は外まで聞こえていたらしく、すげー怒った顔の社員が入ってきて「社長室まで聞こえてたぞ!ふざけるな!出て行け!」と、2人で追い出されてしまった。

俺、しばらくポカーンとしちゃって、その後で当たり前だけど怒りが湧いてきた。

おっさんに「どうしてくれるんだよ」って掴みかかったけど、おっさん平然としてんの。うまく言えないんだけど、馬鹿にしてるとか頭おかしいとかじゃなくて、普通に平然とした顔で「大丈夫だよ。君は大丈夫」と言って頷いてた。

俺も何故か怒りがすっと引いて「よく考えたら、別にそんな入りたい会社じゃなかったな」って冷静になった。おっさんの胸元掴んでしわしわになってたんで「すんませんでした」と謝ったら、おっさんはまた普通の顔で「大丈夫だよ」と言って去っていった。

その後OBからは連絡なかった。でもその会社の熱意というか強引な口説き方が、遅まきながら怖くなったから、俺からも連絡しなかった。

それから2ヶ月後、ちょっとだけ条件を譲歩したら、元々の希望だった研究職の内定もらえた。俺はおっさんに感謝した。

でも本当に驚いたのは、それから3年後だった。

昼休みに食堂で見たニュース。俺とおっさんが追い出された会社が、謝罪会見やってた。詳しくは書けないけど、会社ぐるみで犯罪やって、社長以下、幹部はほとんど逮捕。平社員も犯罪行為に加担させられてて、かなりの人が客から訴えられたそうだ。

いっしょに飯食ってた同僚に、

「もしかしたら自分は、ここではなくこの会社に入るかもしれなかった。いや、おっさんが邪魔してくれなかったら、確実に入ったと思う」と話したら、

「もしかしてそのおっさんって、幸福の妖精じゃねーの?」と言われた。

小太りでださくて、しかもはげてるおっさんの妖精かwww

でも本当に感謝してる。いつか会ったら礼を言いたいけど、あれ以来会ってない。

関連記事

テレビの記憶

これは昔、NHKで地方の紹介をする番組で放送されました。 それは祭りとか風習とかで毎週一つの土地をクローズアップして紹介する番組だったのですが、一度ある雪深い地方が紹介された時、…

狐の社(宮大工2)

俺が宮大工見習いを卒業し、弟子頭になった頃の話。 オオカミ様のお堂の修繕から三年ほど経ち、俺もようやく一人前の宮大工として仕事を任されるようになっていた。 ある日、隣の市の…

車に乗った白い霊

私が学生の時に、実際に体験した話です。 その当時付き合っていたある女友達は、ちょっと不思議な人でした。 弟さんが亡くなっているんですが、彼女の家に遊びに行くと、どこからかマ…

街並み

見知らぬ街で目覚めた日

2001年の秋、私は風邪を引いて寒気を感じていました。症状を抑えるため、大久保にある病院に行くことにしました。西武新宿線の車内でつり革につかまり、頭痛がひどくなってきたため、目を閉じ…

キジムナー

あまり怖くないが不思議な話をひとつ。 30年くらい前、小学校に行くかいかないかの頃。 父の実家が鹿児島最南端の某島で、爺さんが死んだというので葬式に。 飛行機で沖縄経…

ビル

無音のビルと時空の警告

二、三年前、私が建設業の見習いだった時の体験です。その年の夏は特に暑く、その日は忙しさのあまり、休憩も取らずに作業に没頭していました。私たちは、ビルの改修作業を行っており、上司からの…

インフルエンザウィルス(フリー素材)

高熱とアリス症候群

去年の年末、俺がインフルエンザで倒れていた時の話。 42度という人生最高の体温で、意識もあるのか無いのか分からない状態で俺は寝ていたのだが、尿意に襲われてふらふらと立ち上がった。…

消えた駅

消えた駅と、もうひとつの世界

よく「時空を超えた」とか、「少し違う世界を垣間見た」なんて体験談を目にしますが、実は私にも似たような経験があります。 というより、今なお、その“続き”の中にいるのかもしれません…

異界の夜

禁足の神社と小さな神主

夏の時期に体験した、不思議で、どこか気味の悪い出来事です。 それは今から3年前、私が21歳だった頃の夏。ちょうど8月の二週目のことでした。 大学に通うために上京していた私…

チクリ

大学に通うために上京してすぐのことです。 高田馬場から徒歩15分ほどにある家賃3万円の風呂なしアパートに下宿を始めました。 6畳でトイレ、キッチン付きだったので、その当時と…