時空の狭間の少女

Curvature_of_Space_Time_by_RailGun74

これは俺が保育園に通っていた時の話。

俺が住んでた町には第一から第三まで保育園があり、俺は第一保育園に通っていた。

ある夏の日、合同お遊戯会の劇の練習で第一保育園の園児が第二保育園に行くことになった。

この第二保育園の園舎はCの字型になっており遊戯室はCの上の先端にある。

遊戯の練習を終え昼食をとるため俺を含む園児は遊戯室から反対側の先にある教室へと向かっていた。

距離は大体20メートルくらいか。幼少の頃の感覚なのでもっと短いかもしれない。

俺はなにげなしにその教室に向かっていた。

だが、一向に教室に辿り着かない。端まで行ったつもりが元の遊戯室の前に戻ってきていた。

幼かった俺は少し不思議に思ったくらいでまた反対側へと引き返した。

しかし辿り着いたのはまたも遊戯室の前。

さっきまで一緒に歩いていた園児達もいつの間にかいなくなっている。

というより園舎の中から人の気配がない。まるで俺だけがこの世界に取り残されたような感覚だった。

さすがに焦った俺は反対側へと走りだした。しかし到着するのは遊戯室の前。

何往復しただろう。途方に暮れた俺が遊戯室の前に着いた時、少し背の高い女の子が立っていた。

見知らぬ顔だ。第二保育園か第三保育園に通っている子だろうか?

その子は泣きべそをかいてる俺に優しく

「どうしたの?」

と話し掛けてくれた。

泣きながらも俺は教室に行けないことを告げると、彼女は俺の手をとり

「わたしといっしょにいこ」

と言い、俺達は教室を目指し歩きだした。

程なくして反対側に着くと、そこは先生数人がバタバタと慌ただしくしていた教室だった。

俺は「せんせー!」と叫び走り出し、それを見た先生は

「どこ行ってたの? 探したのよ!」

と俺を抱き抱えてくれた。ふと気付くと辺りは夕陽が差しており、俺は4時間近く行方不明になっていたらしい。

俺は保育園から出ていないし、彷徨っていたのもせいぜい30分程度だ。

当時の俺はそんな事を考えている余裕もなく「あの子に連れて来てもらったの」と言い後ろを振り返ったのだが、さっきまで一緒にいた女の子は姿を消していた。

先生に訊いてもそんな女の子はいないと言う。

それ以来、俺は不思議な体験をしていない。

今でもはっきりと憶えている。幼少の夏の少し不思議な思い出…。

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