バンザイ
何年か前、仕事の関係でマレー方面へ行った時の話だ。
その日、仕事も一段落したので近くにある大きな公園で一休みをしていた。
公園と言っても遊具は無く、ただ異常に広い原っぱが広がっているだけだ。
ベンチに座り、地元のガイドと談笑していた時にそれは起きた。
遠くの方で微かに、しかし確実にセスナ機が飛ぶようなエンジン音が聞こえてくる。
1機や2機といった数ではない。
やがて「それ」は姿を現した。
軽く50機はあるプロペラ機の大編隊が、向こうの森から姿を現した。
しかし日光の影響でシルエットしか分からず、飛行機がどのような種類の物かは分からない。
ただ唯一分かるのは、左右の翼にエンジンが一つずつ付いている双発機だということだ。
身動きどころか喋ることも出来ず、私は黙って「それ」を見つめていた。
やがて、それぞれの飛行機から人が飛び降り始めた。
合わせて数百人もいただろうか…。
そして、シュルシュルと落下傘が開いて着地した。
その瞬間である。
「バンザァァイ!」という歓声と共に、自分の方に全ての人影が向かってきた。
何がなんだか分からないまま、私はベンチの下に慌てて隠れた。
途端に、鼓膜が破れるかとばかりに聞こえていた歓声がぴたりと止んだ。
顔を上げてみたが、あの飛行機も、数百の人影も綺麗に消えていた。
ガイドは「よくある事だ」とぽつりと漏らした。
以前に、あそこで何があったかは私は何も知らない。