迷子の時間

住宅街

20年ほど前の話ですが、当時私は小学4年生でした。

近所には変わった形をしたすり鉢状の滑り台がある公園があり、それは小学生にとって非常に人気のある遊び場でした。学校が終わるとすぐに公園へ行かなければ、激しい取り合いや上級生による支配が待っているため、早めに行くことが必須でした。

ある日、学校が終わってから親友のT君と公園で会う約束をしました。家に着くなりランドセルを放り投げ、自転車に飛び乗り公園へ向かいました。

しかし、走っている途中で何かがおかしいと感じ、自転車を停めてみると、さっき渡ったはずの信号が遠くに見えました。そして、周囲には誰もおらず、普段ならば賑やかな住宅街が不気味なほど静まり返っていました。

数百メートル先の信号に向かって再び自転車を漕ぎ始めましたが、どれだけ漕いでも信号は近づいてこないようでした。漕ぎ疲れて、ついに立ち止まり、泣き出してしまいました。

その時、角から40歳くらいのおっさんが現れ、何かで話しながら歩いてきました。おっさんは私の涙を見ると、「居た、居たわ」と言い、近づいてきて頭を撫で、「よしよし、怖かったな、お家に帰ろうな」と慰めてくれました。

その瞬間、突然周囲の音が戻り、車の騒音がして、すべてが元の世界に戻りました。

公園に着くと、T君はまだ到着しておらず、彼が到着するまで10分ほど待ちました。T君が到着すると、「お前、早いなー。いつ着いた?」と聞かれましたが、私が「10分くらい前」と答えると、「嘘吐くな!俺、めっちゃ飛ばして来たんや。10分前ってまだ学校帰りやんけ」と驚かれました。

実際には、学校を出てから15分しか経っておらず、家から公園までの道のりが20分かかるはずなのに、時間がおかしいことになっていました。この不可解な体験をT君に説明し、二人で「何やろなー」と首をかしげました。

あの日の体験は一体何だったのでしょうか。

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