田舎の不思議な行事

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

田舎の夜(フリー写真)

これは今から約15年前、南伊豆の小さな村で私が実際に体験した、怖いと言うより少し不思議な話です。

小学3年生の夏。私たち家族(父・母・私)は、お盆休みを伊豆のK村という場所で過ごすことになった。

かつては漁業と民宿業で栄えたこともあったようだが、今では過疎化も進み、人口わずか百人足らずの小さな村である。

私の母はこの村の出身だが、幼い頃に東京に引っ越してしまったため、現在は遠い親戚が残っているだけだ。

それでも、田舎の村というのは親戚間の繋がりが強く(村人の殆どが親戚なのだが)、着いた翌日には顔を合わせていない人はいないのではないかと思う程、私たちが泊まっている民宿を沢山の人が訪ねて来た。

子供の私にとって、見知らぬ大人たちに会うことは楽しいものではなかったが、この民宿に同い年の女の子(Mちゃん)がいたので、退屈な思いをすることはなかった。

村に来て4日目の夜。

私たち家族は、この村のお盆の恒例行事に参加することになった。

お盆の行事と言えば、夏野菜で動物を作って飾ったり、玄関の前で火を炊いてご先祖様をお迎えしたりと、地方によって様々な風習があると思うが、この村の行事は一風変わったものだった。

まず、フラフープぐらいの大きさがある数珠を、大人たち5、6人が横にして持ち、その中に子供が入る。

この年、数珠の中に入ったのは私とMちゃんだった。

そしてその状態のまま、お経とも歌ともつかない不思議な言葉を唱えながら、数珠を回しつつ村を練り歩くのだ。

村には都会の街のような街灯やネオンもなく、真っ暗な道を提灯の灯りを頼りに歩いて行く。

正直、私は逃げ出したいほど怖かったのだが、隣で平然と歩いているMちゃんがいる手前、そんな泣き言をこぼすわけにもいかず、ただただ大人たちの不気味な声を聞きつつ暗い夜道を歩き続けるしかなかった。

そんな調子でどれくらい歩いていただろう。

私はふと、周りにいる大人たちの数が異常に増えていることに気が付いた。

さっきまで周りにいた人たちは、この数日間で顔見知りになった人ばかりだったが、今は見たことのない顔が沢山ある。

その人たちに何か上手く言葉では表現できない違和感を覚えつつも、人が増えたことは私を少し安心させてくれた。

そうして、約一時間は歩いただろうか。

最後に村のお寺でロウソクに火を灯して、ようやく私たちは解放された。

火を点けたロウソクは、提灯に入れて各人がそれぞれの家へ持ち帰る。

私たちも親戚と一緒に提灯を持って民宿に帰り、火を仏壇のロウソクへと移した。

その時である。

私は仏壇に置かれている遺影の中の人が、さっき私の周りを歩いていた人の中にいたことに気が付いたのだ。

流石に小学3年生と言えども、遺影が亡くなった人のものであることは知っている。

私はもう泣き出さんばかりの勢いで母にそのことを伝えると、母は

「だって、そういうお祭りなのよ」

と笑った後に、

「お母さんも子供の頃に、死んだおじいちゃんを見たのよ」

と教えてくれた。

それ以降、お盆の時期にこの村へ行ったことはない。

いつかもう一度、あの不思議な行事に参加してみようと思っている。

大人になった今、亡くなった人の姿が見えるかどうかは分からないけれど。

関連記事

時空のおっさん

消えた朝

それは、私が8歳の頃に体験した、今も忘れられない出来事です。 我が家は商店街の一角にある魚屋で、年中無休で営業していました。 ある日、目を覚ますと、家の中には誰もいません…

襖(フリー写真)

触れてはいけないもの

田舎に泊まった時の話。 私の田舎は米農家で、まあ、田舎独特のと言えば宜しいでしょうか。 とても大きな家で、従兄弟が集まる時は一家族に一部屋割り当てていました。 私が…

年賀状をくれる人

高校生の時から今に至るまで、十年以上年賀状をくれる人がいる。 ありきたりな感じの干支の印刷に、差出人の名前(住所は書いてない)と、手書きで一言「彼氏と仲良くね!」とか「合格おめで…

チクリ

大学に通うために上京してすぐのことです。 高田馬場から徒歩15分ほどにある家賃3万円の風呂なしアパートに下宿を始めました。 6畳でトイレ、キッチン付きだったので、その当時と…

何かの肉塊

僕が小学生の頃なので、もう20年くらい前になるのか。 母方の祖母(大正生まれで当時60歳)から聞いた話を思い出した。 祖母がまだ若かった頃、北海道の日本海側の漁村に住んでい…

山では不思議なことが起きる

この話を聞いたのはもう30年も前の話。 私自身が体験した話ではなく、当時の私の友人から聞いた話。 その友人は基本リアリストの合理主義者で、普段はTVの心霊番組や心霊本などは…

ひな祭り(フリー写真)

三つ折れ人形

私の実家に、着物の袖が少し焦げ、右の髪が少し短い、一体の日本人形があった。 桐塑で出来た顔には、ちゃんとガラスの目が嵌め込まれていた。 その上に、丁寧に胡粉の塗られた唇のぽ…

満月(フリー画像)

天狗

35年前くらいの事かな。俺がまだ7歳の時の話。 俺は兄貴と2階の同じ部屋に寝ていて、親は一階で寝ていた。 その頃は夜21時頃には就寝していたんだけど、その日は何だか凄く静か…

北陸本線

二日前だから11月の6日の出来事。終電間近の北陸本線の某無人駅での変な話。 音楽を聴きながら待っていると、列車接近の放送もなく急にホームに列車が現れた。 「うぉっ、時刻表よ…

高架下(フリー写真)

夢で見た光景

数ヶ月前の出来事で、あまりにも怖かったので親しい友達にしか話していない話。 ある明け方に、同じ夢を二度見たんです。 街で『知り合いかな?』と思う人を見かけて、暇だからと後を…