田舎にワープ

縁側(フリー写真)

自分でも今だに信じられない話。俺が小学二年生の夏の話。

弟と兄弟喧嘩をした時、両親は理由も聞かず、長男だからという理由で俺だけを叱った。

正座させられた俺に、両親の後ろに回り込んでアカンベエをする弟。

その晩、俺は悔しさのあまり深夜にこっそり家出した。

行く所など無く、深夜の住宅街をぶらついていたのだが、人気の無さに怖くなり、自宅に戻って物置に隠れた。

そして物置にあったボロボロの毛布を頭から被って、悔し泣きをした。

『俺の両親は、本当の両親じゃないんだ。俺は嫌われてるんだ』

そう思いながら声を殺して泣いていたら、ふと父方の祖父母の顔が浮かんだ。

県の北部、自宅からは車で片道二時間ほど掛かる山の中に住む祖父母。

遊びに行くといつも可愛がってくれたものだ。

『じいちゃんとばあちゃんなら俺を嫌わないでくれる』

両親が他人と言うなら、当然父方の祖父母も他人だとは思うが、幼かった俺はそこまで考えが及ばなかった。

その夜は、田舎の祖父母に川や山で遊んでもらった昨年の夏を思いながら眠った。

ふと目を覚ますと、埃っぽい毛布を払い除けた。

するとそこは見慣れない納屋のような場所だった。

もう朝になっているらしく、高窓からは朝の白い日差しと、間の抜けたニワトリの鳴き声が聞こえた。

俺は自宅の物置で寝ている間に両親に見つかって、そのままどこかに捨てられたと直感的に思った。

堪え切れない悲しみに、俺は声を出してワンワン泣いた。

すると突然、ガラガラと納屋の戸が開いた。

反射的にそちらを見ると、何と田舎の祖父が立っていた。

「ああ~~!?」

間の抜けた声を発して駆け寄る祖父。

「じいちゃん!!」

俺は祖父に抱き着いて、また泣いてしまった。そこからの記憶が無い。

気が付くと、祖父母の家の縁側に面した座敷に寝かされていた。

縁側からの心地良い風にボーっとしていたら、突然祖父の怒鳴り声が聞こえた。

声のした茶の間に行くと両親が来ており、何故か両親は祖父母に手をついて詫びていた。

俺を見つけた両親は、

「悪かった!」

と泣きながら俺に抱き着いて来て、俺も何故か泣いてしまった。

大人たちの話では、理不尽な叱られ方をした俺が、一人で田舎まで来て祖父母に助けを求めた、ということになっていた。

祖父母は、

「じいちゃんもばあちゃんも寝ていたんで、お前に気付かなくて悪かった。あんなとこに居るなんて」

と俺に詫びた。

その後、

「どうやって来た?」

と祖父母や両親は俺に聞いたが、俺にも分からないので

「分からん」

と言ったら、それ以上聞いて来なかった。

深夜で電車も無く、金も無いのに何故か一晩でワープしていた俺。

今だにあれが何だったのか解らない。

関連記事

お婆ちゃんの手(フリー素材)

牛の貯金箱

小学生の頃、両親が共働きで鍵っ子だった俺は、学校から帰ると近所のおばあちゃんの家に入り浸っていた。血縁者ではないが、一人暮らしのばあちゃんは俺にとても良くしてくれたのを覚えてい…

浮世絵のフリー素材

灯籠と火の玉

じいちゃんから聞いた話。真夏の夕方、お使いの帰り道。お寺の片隅に人だかりが出来ているのを見つけた。気になったじいちゃんは、人だかりが出来ている場所に行った。人だ…

蛇神様の奥宮(宮大工3)

お稲荷さま騒動から3年ほど経った晩秋の話。宮大工の修行は厳しく、なかなか一人前まで続く者は居ない。また、最近は元より、今から十年以上前の当時でも志願してくる若者は少なか…

不気味な山道(フリー写真)

頭が無いおじちゃん

知り合いが体験した話。彼女は幼い娘さんを連れて、よく山菜採りに出掛けているのだという。 ※ その日も彼女は、二人で近場の山に入っていた。なかなかの収穫を上げ、下山し…

登山(フリー写真)

伸びた手

8年前の夏、北陸方面の岩峰に登った時の話。本格登山ではなくロープウエーを使った軟弱登山だった。本当は麓から登りたかったのだが、休みの関係でどうしようも無かった。…

エスカレーターの中の母娘

とあるヨーロッパの国に留学してた時の話を。まあ言葉もままならない頃、よく日本人の友達を家に呼んで飲んでたんだが。俺の家は屋根裏で、大き目の丸窓から地下鉄の出口が見える。…

手伝うよ

私が通学する駅は自殺の多い駅だ。そのせいか、電車の急停止が多い。急停止が多いあまり、学校や会社に遅れても「電車が」「自殺があって」と言えば遅刻扱いにならず、受験は余った…

住宅街(フリー素材)

入れ替わった兄

小学校に上がる前だと思う。ある朝、目を覚ますと隣で寝ている兄以外、家の中に人の気配が無かった。家中を見て回るが、誰も居ない。不安になって兄を起こそうと声を掛け、…

エレベーター

ワープする部長

会社でのぬるい話をひとつ。コンサル部の部長は時々ワープするらしい。打ち合わせ中に他の場所で目撃されたり、出張中なのにかかってきた電話に出ていたりと、「瞬間移動できる」ま…

田舎の風景(フリー写真)

犬の幽霊

あれは小学6年生の頃、夏の盛りだった。僕は母方の田舎に一人で泊まりに来ていた。田舎のため夜はすることがなく、晩飯を食った後はとっとと寝るのが日課になっていた。 ※ …