不思議なおっさん

癒しの手

自分が小学生の頃、近所で割と有名なおっさんがいた。

いつもぶつぶつ何か呟きながら町を徘徊していた人だった。

両親も含めて、奇妙な人だから近寄らない方が良いと誰もが言っていたので、話し掛けたことはなかった。

当時サッカークラブに通っていたのだが、ある日、思い切り首を打ってしまった。

鎖骨が折れてしまい急遽病院へ。その時、校門からあのおっさんが俺のことを見ていた。

翌日、ギブスで首をガチガチに固定された状態で学校へ。

休み時間に廊下の窓から外を見ると、あのおっさんがいるではないか。

放課後、友人と一緒に家に帰る途中でおっさんは待機していた。

おもむろに俺に近寄ると、首のところにスッと手を当ててくれた。

その間、およそ数分間。おっさんの額は汗でぐっしょり。

さすがに怖くて、おっさんが手を離すと、俺はすぐに家に向かって走った。

家に着いて両親にそのことを話そうとした時、変化に気付いた。

首の違和感が全く無いではないか。

1週間後、経過確認で病院に行ったら医者が驚嘆していた。骨折の跡がまるで無かったらしい。

俺はその話を両親にしたけど、まるで信じない(治ったこと自体は不思議がっていたが)。

俺自身も半信半疑だったが、一応おっさんにお礼を言おうと思ったら行方をくらましていた。

今から思えば、子供には評判が良かったおっさんであった。

元気であって欲しいと思う今日この頃。

関連記事

お酒(フリー写真)

悪夢を見せる子守唄

もう時効だと思うから投稿します。 うちには代々伝わる『相手に悪夢を見せる子守唄』というものがある。 何語か判らないけど、詩吟などに近い感じで、ラジオ体操の歌ぐらいの長さの…

第二次世界大戦(フリー素材)

再生

祖父が戦争中に中国で経験した話。 日本の敗色が濃くなってきた頃、祖父の入っていた中隊は中国の山間の道を南下していた。 ある村で一泊する事になり、祖父達下士官は馬小屋で寝る事…

チャイムが鳴る

ある蒸し暑い夏の夕暮れ時、俺は自宅の2階で昼寝をしていた。 「ピンポ~ン、ピンポ~ン」 誰か来たようだ。俺以外家には誰もいないし、面倒くさいので無視して寝ていた。 「…

オオカミ様の涙(宮大工6)

ある年の秋。 季節外れの台風により大きな被害が出た。 古くなった寺社は損害も多く、俺たちはてんてこ舞いで仕事に追われた。 その日も、疲れ果てた俺は家に入ると風呂にも入…

金木犀(フリー写真)

金木犀の苗木

両親を事故で亡くした俺には、9歳離れた姉貴が居た。 子供の頃、肥満気味で両親が居なくて虐められていた俺を、いつも助けてくれた。 優しくて、強くて、俺の自慢の姉貴だった。 …

登山(フリー素材)

赤い着物の少女

システムエンジニアをやっていた知人。 デスマーチ状態が続き、残業4、5時間はザラ。睡眠時間は平均2〜4時間。 30歳を過ぎて国立受験生のような生活に、ついに神経性胃炎と過労…

高架下(フリー写真)

夢で見た光景

数ヶ月前の出来事で、あまりにも怖かったので親しい友達にしか話していない話。 ある明け方に、同じ夢を二度見たんです。 街で『知り合いかな?』と思う人を見かけて、暇だからと後を…

温泉街(フリー写真)

歪んだ旅館

怖いと言うよりちょっと不思議な話です。 会社のK子さんという同僚から聞いたお話で、彼女の実体験です。 K子さんは先月の末、妹さんと二人で箱根の温泉旅館に行ったそうです。 …

地下通路

裏世界へ続く道

夏の日の一件は、今でも私の心に鮮烈に刻まれている。 私が小学5年生の夏休み、近所の大きなグラウンドで昆虫のリストを作成していた際、地面に隠れている錆びついた鉄の扉を見つけた。 …

コンサートホール

某コンサートホール

以前、某コンサートホールでバイトをしていました。その時の体験を話そうと思います。 初めに気が付いたのは、来客総数を試算するチケット・チェックの場所でした。 私たちはもぎった…