不思議な老人と駅

駅(フリー写真)

今年の夏に体験した話。

雨がよく降る火曜日のこと。その日は代休で、久々に平日をゆっくり過ごしていた。

妻はパート、子供達は学校。

久しぶりの一人の時間に何をして良いやら分からず、取り敢えず外へ出てみた。

すると、家の前を一人の老人が横切って行った。

それを見た途端、車で出掛けようと思っていたはずなのに、何故だか外を散歩したくなった。

平日の昼間、雨の中、誰も居ない道路。これらのキーワードがとても懐かしくなり、傘を差して歩き出した。

ブラブラ歩いていると、目の前には小さな市電駅。

それも懐かしく思い、駅に入ってみた。

誰も居ないホームに雨の音…。

私は、今度は電車に乗りたくなり、切符を買った。

行く宛など無かったので、取り敢えず3つ先の駅、実家のある駅まで行こうと決めた。

ホームのベンチに座り電車を待っていると、向かいのホームに先程の老人と思われる方が座っていた。

気にも留めずに、ぼーっと『電車を降りたら母校まで歩こうかなー』などと考えていた。

ふと左横を見ると、向かいに居たはずの老人が横のベンチに座っていた。

向かいのホームとこちらのホームを繋ぐ陸橋は私の右側。

誰も横切ってはいないはずなのに、そこには老人が座っていた。

普通ならとても怖くなるところだが、何故か私は怖くはなかった。

それどころか気にも留めていなかった。まるで不思議な事ではないように…。

田舎の電車は、平日の昼間なんて一時間に一本。なかなか来ない。

また横を見てみた。誰も居ない…。『あれ?』と思い右を見ると、私のすぐ右隣に座っていた。

流石に驚いた。

驚いたのだが、それよりも、その老人が誰かに似ていることが気に掛かった。

『あれ? 誰だっけ?』と真剣に考えていた。そんな中、電車が来た。

私は電車に乗ったが、老人は乗ろうとはしなかった。

きっと次の電車に乗るのだろうと、さして気にも留めず、私は電車の中であの老人が誰だったのか考えていた。

考えて考えて、二つ目の駅でやっと思い出した。

4年前に亡くなった親父だった。

何故すぐに思い出せなかったのか不思議だ。

あの時の空間には、不思議な空気が確かに流れていた。

関連記事

赤信号(フリー写真)

ニコニコ

中学生の時の話。 当時6歳だった弟と剣道の道場に通っていた時のこと。 道場の近くに大きな交差点があるんだけど、そこの横断歩道で信号が赤から青に変わるのを待っていた。 …

チクリ

大学に通うために上京してすぐのことです。 高田馬場から徒歩15分ほどにある家賃3万円の風呂なしアパートに下宿を始めました。 6畳でトイレ、キッチン付きだったので、その当時と…

夜のオフィス(フリー素材)

中小ソフトウェアハウス

中小ソフトウェアハウスに勤めていた友人Kの話です。 あるプロジェクトの納期がきつくデスマーチとなり、Kとその先輩は連日徹夜で作業していたそうです。 ところが、以前のプロジ…

スローになる空間

友達の家に手応えのある変な空間がありました。 何もないところで手をふると、そこだけスローになる。 それは空中に留まっており、撫で回してみるとバスケットボールぐらいの大きさ。…

封じ(長編)

アパートに帰り着くと郵便受けに手紙が入っていた。色気のない茶封筒に墨字。間違いない泰俊(やすとし)からだ。 奴からの手紙もこれで30通になる。今回少し間が空いたので心配したが元気…

山道(フリー写真)

出られなくなる山道

車好きの友人(Aとします)から聞いた話です。 G県のある山中に、夜間は通行禁止にされている山道があるそうです。 夜間通行禁止の理由として、 『明かりが全く無い上に見通…

砂時計

書き換えられた解答

昔、高校受験の勉強中に起こった不可解な出来事を思い出す。 市販の問題集で勉強していた時、答え合わせをしていると、一問だけどうしても正解が理解できない問題がありました。 私…

見えない壁

数年前の話。 当時中学生だった俺は雑誌の懸賞ハガキを出すために駅近くの郵便局に行く最中だった。 俺の住んでる地域は神奈川のほぼ辺境。最寄り駅からまっすぐ出ているような大通り…

アクァッホ(長編)

多分信じてもらえることはないだろうから、そういう創作物として見てくれれば幸い。 まず交流に使った方法はチャネリング(日本でいうところの口寄せの術)。 たまたま適当にネット漁…

満月(フリー画像)

天狗

35年前くらいの事かな。俺がまだ7歳の時の話。 俺は兄貴と2階の同じ部屋に寝ていて、親は一階で寝ていた。 その頃は夜21時頃には就寝していたんだけど、その日は何だか凄く静か…