ファンの悲哀

満月

昔、私はある役者の熱狂的なファンでした。彼が出演するすべての作品を見るのはもちろん、関連する雑誌も買い集めていました。しかし、彼はある日、病気のために休養を余儀なくされ、そのまま亡くなってしまいました。

彼の死後、私は何も手につかなくなり、半ばうつ状態に陥りました。外出時も家でも泣き崩れることが多く、「役者さんが死んだのはお前らのせいだ」と彼の事務所に中傷の電話やファックスを送るなど、行動がエスカレートしていきました。

やがて、役者さんを何とか蘇らせる方法はないかと、オカルトにのめり込んでいきました。交霊術やお寺参りなど、あらゆる方法を試みましたが、成功することはありませんでした。

限界を感じたある日、私は自棄になり、住んでいるマンションの屋上へと向かいました。青白い満月が浮かぶ美しい夜空の下で、「返して! 私が死んだら代わりに役者さんを返して!!」と叫びながら、絶望の中、自らの命を絶とうと柵を越えました。

しかし、その瞬間、私は自宅のベッドで目覚めました。全てが夢のように感じられましたが、日付がおかしいことに気がつきました。私が飛び降りたはずの11月14日、同じ日付が今も続いていました。さらに、以前の自分の行動が信じられないほど不快に感じ、役者さんのグッズや関連商品を全て手放しました。

その後、テレビでその役者さんが元気に活動しているのを目にし、インターネットで調べてみると、彼が病気で亡くなったという情報はどこにも見当たりませんでした。彼が普通に生きている現実に混乱しましたが、かつての熱狂的なファンだった自分とはすっかり縁が切れていました。

この出来事から1年が経ち、時折その記憶が夢のように感じられますが、未だにその出来事の真実が理解できずにいます。私の過去の熱狂的な行動が今では恥ずかしい黒歴史となっており、時々そのことでモヤモヤとした気持ちになることがあります。

関連記事

第二次世界大戦(フリー素材)

再生

祖父が戦争中に中国で経験した話。 日本の敗色が濃くなってきた頃、祖父の入っていた中隊は中国の山間の道を南下していた。 ある村で一泊する事になり、祖父達下士官は馬小屋で寝る事…

白猫(フリー写真)

先導する猫

小学生の頃、親戚の家に遊びに行ったら痩せてガリガリの子猫が庭にいた。 両親にせがんで家に連れて帰り、思い切り可愛がった。 猫は太って元気になり、小学生の私を途中まで迎えに来…

山(フリー写真)

山に棲む大伯父

もう100年は前の事。父方の祖母には2歳離れた兄(俺の大伯父)が居た。 その大伯父が山一つ越えた集落に居る親戚の家に、両親に頼まれ届け物をしに行った。 山一つと言っても、子…

夜のオフィス(フリー素材)

中小ソフトウェアハウス

中小ソフトウェアハウスに勤めていた友人Kの話です。 あるプロジェクトの納期がきつくデスマーチとなり、Kとその先輩は連日徹夜で作業していたそうです。 ところが、以前のプロジ…

ブランコ

異なる世界から

これは私が小学四年生の頃の話です。当時、私は地名が○○団地という、一戸建てが集まるような地域に住んでいました。その地域は既に高齢化が進んでおり、同級生はほとんどおらず、私は自然と兄と…

キャンプファイアー(フリー写真)

火の番

友人が何人かの仲間とキャンプに出掛けた時のことだ。 夜も更けて他の者は寝入ってしまい、火の側に居るのは彼一人だった。 欠伸を噛み殺しながら、 『そろそろ火の始末をして…

謎の駅と老人の地図

俺は5年前、大学1年の時に重い精神病を患った。 最初は何となくやる気が起きないことから始まったんだが、そのうち大学の構内とか、人込みの中とかで、俺の悪口が聞こえるようになったんだ…

キャンプ場(フリー素材)

黒い石

大学時代のサークル活動で不思議な体験をした。 主な登場人物は俺、友人A、先輩、留学生3人(韓国、中国、オーストラリア)、友人Aの友達のアメリカ人、他は日本人のサークルメンバー。 …

校舎(フリー写真)

消えたヤンキー

現在就活中で、大阪と兵庫の辺りをうろうろしている。 昨日ホテルに帰る途中のタクシーの中で、一緒に居た友人が何故か怖い話を始めた。 その時に運転手さんから聞いた話。 …

狐の嫁入り

俺の実家は山と湖に囲まれた田舎にある。 小学校6年の時の夏休みに、連れ二人と湖に流れ込む川を溯ってイワナ釣りに行く事になった。 雲一つも無いようなよく晴れた日で、冷たい川の…