ファンの悲哀

満月

昔、私はある役者の熱狂的なファンでした。彼が出演するすべての作品を見るのはもちろん、関連する雑誌も買い集めていました。しかし、彼はある日、病気のために休養を余儀なくされ、そのまま亡くなってしまいました。

彼の死後、私は何も手につかなくなり、半ばうつ状態に陥りました。外出時も家でも泣き崩れることが多く、「役者さんが死んだのはお前らのせいだ」と彼の事務所に中傷の電話やファックスを送るなど、行動がエスカレートしていきました。

やがて、役者さんを何とか蘇らせる方法はないかと、オカルトにのめり込んでいきました。交霊術やお寺参りなど、あらゆる方法を試みましたが、成功することはありませんでした。

限界を感じたある日、私は自棄になり、住んでいるマンションの屋上へと向かいました。青白い満月が浮かぶ美しい夜空の下で、「返して! 私が死んだら代わりに役者さんを返して!!」と叫びながら、絶望の中、自らの命を絶とうと柵を越えました。

しかし、その瞬間、私は自宅のベッドで目覚めました。全てが夢のように感じられましたが、日付がおかしいことに気がつきました。私が飛び降りたはずの11月14日、同じ日付が今も続いていました。さらに、以前の自分の行動が信じられないほど不快に感じ、役者さんのグッズや関連商品を全て手放しました。

その後、テレビでその役者さんが元気に活動しているのを目にし、インターネットで調べてみると、彼が病気で亡くなったという情報はどこにも見当たりませんでした。彼が普通に生きている現実に混乱しましたが、かつての熱狂的なファンだった自分とはすっかり縁が切れていました。

この出来事から1年が経ち、時折その記憶が夢のように感じられますが、未だにその出来事の真実が理解できずにいます。私の過去の熱狂的な行動が今では恥ずかしい黒歴史となっており、時々そのことでモヤモヤとした気持ちになることがあります。

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