愛犬との最期のお別れ

犬(フリー画像)

私が飼っていた犬(やむこ・あだ名)の話です。

中学生の頃、父の知り合いの家で生まれたのを見に行き、とても可愛かったので即連れて帰りました。

学校から帰ると毎日散歩に連れ出していました。

そして私が探して欲しいばかりに隠れんぼなどをして、犬を困らせていました。

次の年に、可愛い子犬を四匹産みました。

その内の一匹は誰にも貰われず、うちで育てることになりました。

そんなこんなで大学卒業まで、すっと二匹と一緒に居ました。

私が大学院に進学するために実家を離れ家を出た一ヵ月後、やむこは糖尿病で目が見えなくなりました。

インシュリン注射をしてあげたかったのですが、何せ学生で生活費も無く、なけなしのバイト代を掻き集めて病院に連れて行ってもらう毎日でした。

私に出来ることは、ちょくちょく実家に帰って目が見えなくなったやむこの世話をすることぐらいでした。

実家の玄関までに用水路が掛かった橋があって、やむこは目が見えなくなってから、散歩の度にそこを通るのがとても怖かったようです。

私が居る時は、いつも抱っこして通っていました。

その年の12月のある晩、私は実家に向かうフェリーの中でやむこの夢を見ました。

畳の部屋に私のジャンパーが置いてあり、それを捲るとやむこがお座りしていて、ニコニコしながら尻尾を振っているのです。若い頃の、元気な姿で。

私が「どうしたのー? ここまで遠かったでしょ?」と言って手を差し伸べ、頭を撫でるとニコニコしていました。

その日の晩はとても疲れていたのに寝苦しく、また冬だというのに体が熱く、寝付いたのは明け方でした。

目が覚めて一日が何事も無く過ぎ、夜になって実家に明日帰ると電話をすると、やむこが朝、起きたら冷たくなっていたと母から告げられました。

私は号泣しました。次の日に実家へ帰り、やむこが居なくなった場所にぽつんと一匹残された子供の犬を撫でながら、後二日頑張ってくれたら…と、泣きに泣きました。

しかし子供の犬を撫でていると、やむこが「私は子犬を残したわ。だから○○ちゃん泣かないで」と言っているような気がして堪りませんでした。

実際、子犬の存在は私の大きな心の支えです(もうおばあちゃん犬ですが)。

やむこは最期に私にお別れを言いに来てくれたような気がしてなりません。

やむこは12月生まれだったので、誕生日に神様が糖尿病の苦しみから解放してくれたのかもしれません。

やむこ。良い思い出をありがとう。ずっと忘れないよ。

関連記事

田舎の古民家(フリー写真)

4歳年下の妹

私が中学生の時のことです。 夏休みの終わり頃、白い服を着た女の子が頻繁に家の中に現れるようになったのです。 それも昼夜問わず、私が一人の時にばかり現れるのです。 怖…

海

ロッカーの上の遺言

これは、もう何年も前の出来事になる。 当時、私はある会社の社員寮に入っていた。夏の終わり頃のことだった。その年に新たに採用された新入社員4人が、休日に連れ立って海水浴へ出かけた…

自衛隊での体験談

ちょっと専門用語が多いので分かり難いかもしれない。 高校卒業後すぐに自衛隊に入隊した俺だったんだが、7月の後期教育のある日、駐屯地にある小さい資料館の掃除があったんだ。 班…

ホテル

生け贄

この間、親父が物置の整理をしていて、夕方居間にガラクタの山を積み上げて昔を懐かしんでいた。 ガラクタの中には古着やレコードや陶人形などがあった。 ふと一枚の写真が目についた…

オオカミ様の涙(宮大工6)

ある年の秋。 季節外れの台風により大きな被害が出た。 古くなった寺社は損害も多く、俺たちはてんてこ舞いで仕事に追われた。 その日も、疲れ果てた俺は家に入ると風呂にも入…

教室

時を越えた学校

10年前の夏休み、母と姉と一緒に母方の実家に遊びに行きました。その場所は集落から少し離れた山の麓にあり、隣の家まで歩くと5分程度かかる静かな場所でした。当時、私たち姉弟には「学校の怪…

農村(フリー写真)

神隠しの森と村の伝承

ある山村に、不思議な伝承があった。 その伝承によれば、村の奥地にある古い神社には、神隠しの力があると言われていた。 神隠しとは、神や妖怪が人間を自分の世界に連れ去ってしま…

百物語の終わりに

昨日、あるお寺で怪談好きの友人や同僚と、お坊さんを囲んで百物語をやってきました。 百物語というと蝋燭が思いつきますが、少し変わった手法のものもあるようで、その日行ったのは肝試しの…

田舎の風景(フリー写真)

大きな馬

昭和50年前後の事です。 うちの祖父母が住んでいた家は、東京近郊の古い農家の家でした。農業は本職ではなく、借家でした。 敷地を円形に包むように1メートル程の高さの土が盛ら…

ITエリート

某県では次世代を背負って立つITエリートを育てようと、IT教育にたいそう力を入れている。それゆえ、この県の公立学校では、IT教育関連の設備投資に限っては、湯水のように予算を使うことがで…