折詰め

公開日: 怖い話 | 洒落にならない怖い話

art-1007-5x7-1024x731

近所の中華屋でラーメンを食ったんだが、金を払おうとしたら店主がいらないと言うんだ。

「今日でお店終わり。あなたが最後のお客さん。ひいきにしてくれてありがとう。これ、おみやげ」と、折詰めを二つくれた。

俺は何と言っていいか分からなかったけど「とても残念です。おみやげ、ありがたく頂戴します。お疲れさまでした」と挨拶して店を出たんだ。

折詰めの中を見たら、餃子やら春巻やら唐揚げやらが、みっしりと詰まってる。ちょっと一人じゃ食べきれないボリューム。

面白い体験だな、得しちゃったな、と楽しくなってさ。帰り道、友人に電話して、経緯を話してから「今、俺んとこに来たら、中華オードブルがたらふく食えるぜ」と誘ったんだよ。

すると、友人は変な事を言うんだ。

「その折詰めの中身、食ったのか?」

「食ってないよ」

「いいか、絶対食うな。それから、絶対アパートに戻るな。そうだな、駅前のコンビニに行け。車で迎えに行ってやるから」

「どういう事が全然わかんないんだけど」

「説明は後だ。人のいるところが安全だ。コンビニに着いたら電話くれ」

とにかく俺はコンビニに向かったよ。で、友人に電話した。

「着いたよ」

「こっちももうすぐ着く。誰かに後を付けられたりしてないか」

「えーと、お前大丈夫か?」

「それはこっちの台詞だな」

それから、友人と連絡が取れなくなった。携帯が繋がらない。

小一時間、コンビニで待ってたけど、友人は現れない。

友人が言った「絶対アパートに戻るな」というのが何故か頭に残ってたから、ネットカフェで朝まで過ごし、始発で実家に帰った。

いまも実家でゴロゴロしてる。

他の友人に尋ねても、そいつとは連絡が取れないそうだ。

そろそろ学校も始まるし、友人の消息も気になる。

折詰めはコンビニのゴミ箱に捨てた。

二度目の投稿

以前、中華屋で折詰めを貰った者です。

9月も中頃を過ぎて、さすがに実家に居づらくなったのでアパートに戻ってみた。

晩飯にコンビニ弁当を食っていると、お隣の人が来たんだ。「ちょっといいかな」って感じで。

「もう、大丈夫なのか」って聞かれたんで、すごくびっくりした。

「え? なんで知ってんの?」

でも、お隣の人が続けた話にもっとびっくりした。

「夜中にガラの悪い男が、あんたの部屋のドアやら壁やらをガンガン蹴ってたんだよ。

借金か何かでヤクザとトラブったのかと思った。しばらくあんたの顔も見なかったし。でも、あんたも戻ってきたんだしね。詮索はしないよ」

帰ろうとするお隣の人を引き止めて聞いた。

「それはいつ頃のことですか」

「八月の終わり頃と、先週くらいかな。先週のは、しつこく蹴ってたから『警察呼ぶぞ』って言ってやったら、すぐ引き上げたみたいだな。……もしかして、知らなかった?」

俺が半笑いな感じで頷いたら、お隣の人は無言で出て行った。

俺も即、部屋を出た。

それから、カプセルホテルとかを転々としてる。実家にまた戻るのが良いんだろうけど、よく分からない災いをもたらしそうで、正直怖い。

とにかく、消息不明の友人に話を聞くのが解決の近道と、学校の知人と連絡を取り合ってるが、いまだ音信不通。

どうしよう。

三度目の投稿

すいません。以前、中華屋で折り詰めを貰った者です。

消息不明の知人が、自殺していたことが判明しました。

俺は学校を辞めました。

アパートも引き払いました。

多分、これで終わりになるでしょう。

本当の最後として。

俺が消息不明の友人と何とか連絡を取ろうとしていた時、頼りにしていた奴がいた。

そいつは、友人と古くからの付き合いで、そいつならば、友人の居場所の見当もつくんじゃないか、俺はそう思ってた。

アパートから二度目の逃亡で、カプセルホテルに滞在中、そいつから携帯に電話があった。

お前に嘘をついていたことを、まずは謝る。

実は、俺はお前から友人のことを問われた時には、友人が自殺したことを知っていた。車庫で首を吊っていたそうだ。

通夜の晩、俺は親御さんから呼ばれて、別室で話をした。

親御さんは、自殺する理由がどうしても解らないと仰る。俺も『まったく思い当たることがない』と答えた。

すると親御さんは携帯電話を俺に見せた。友人の携帯電話だ。

握りしめたまま息絶えていたそうだ。

遺書らしきものなかった。もしかすると、この携帯になにかメッセージがあるのでないか。

そう親御さんは考えて、俺に確認してくれと仰った。

俺はちょっと奇妙な感じがしたが、親御さんに機能と操作を説明しつつ、中を見た。

録音もなし、メモもなし。

次に発信履歴を見た。そこには、○○○という名前がずらっと並んでいた。全部不在だった。

友人は、多分、自殺する直前まで○○○に電話を掛け続けていたんだろう。履歴のページがその名前で埋め尽くすまで。

さらに、着信履歴を見た。

お前の名前があった。

俺は正直に、親御さんに説明した。

お前から友人に電話があり、しばらく会話した後、友人は○○○に電話を何度も掛けたが繋がらなかった。

そして、友人は間違いを犯した。その後、お前が友人に何度か電話を掛けた。とね。

親御さんに、お前のことと、○○○について聞かれた。俺は知っていることを全部教えた。

○○○は何のことか分からなかったから『分からない』とだけ答えた…

コンビニで待ちぼうけをくったあの晩に、既に友人は自殺していたんだ。

○○○といえば、あの中華屋の店の名前。

そいつの話はまだ続いたが、もうどうでもよくなった。

ただ、この街にいるのは良くない。災いがやってくる。

だから、逃げることにしたんだ。

さようなら。

関連記事

縁の下

あるタクシー運転手の奥さんが、まだ5才になったばかりの子を残して亡くなってしまった。 父親は仕事柄出掛けている時間が長く、そのあいだは隣の家に子どもを預けていた。 しかし、…

猿夢

私は、夢をみていました。 昔から夢をみているとき「私は今夢をみているんだ」と自覚することがあり、この時もそうでした。 なぜか私は一人薄暗い無人駅にいました。ずいぶん陰気臭い…

ドアを開けるな

アパートに一人暮らしの女子大学生Sさん。 大晦日の夜、大掃除も終えて年越しテレビを見ていた。 携帯電話が鳴った。いたずら好きの友人Tからだ。 T「今バイト終わったから…

空き家

赤い鞠

これは私が小学生の頃の話です。 家の近所に一軒の空き家がありました。 その家は昔旅館を経営していた様子で、山奥の長い一本道を上って行くと突然現れるその家は、小学生が誰しも…

エクスカリバー

エクスカリバー

ゲーム好きな人なら「エクスカリバー」という剣の名前を一度は聞いたことがあるんじゃないだろうか。 洞窟の奥深く、地面に刺さるその剣は、選ばれた勇者にしか抜くことのできない…みたいな…

裏山

危険な好奇心(後編)

あれから5年。俺達3人はそれぞれ違う高校に進んで、すっかり会うこともなくなっていた。 あの「五寸釘の女」事件は忘れることが出来ずにいたが、記憶は曖昧になり、その恐怖心はかなり薄れ…

白虎隊

ある高校がF県に修学旅行に行ったそうです。 A君は友達数人で作った班で自由行動を楽しんでいました。 しかし、A君は慣れない土地のためか、班が一緒のB君とその班からはぐれてし…

『さかな』と『みぎ』

その日、友達と近所の公園で待ち合わせをしていた。CDを何枚か借りる約束だった。 季節は今くらいの冬の時期。夕方16時過ぎで、もう薄暗くなりかけだったのを覚えている。 約束の…

アパート

早く早く

かなり昔、私が小学校2、3年の頃の事です。 当時家族でアパートに住んでいたのですが、隣に新婚さん夫婦が引越して来ました。 彼等は二人とも小学校の教師という事で、とても優しく…

呪われた路線

都心と多摩地区を結び、JRのドル箱といわれている中央線。 疾走してくる電車への飛び込み自殺の多発路線としても知られている。 例えば、1995年4月から11月までの8ヶ月間に…