脳の限界
公開日: 死ぬ程洒落にならない怖い話
俺は大学時代に心理学を専攻していて、その時のゼミの先生の話なんだけど、この話に幽霊などその類は一切出てこない。
先生からその話を聞いた日は、ゼミの後に飲み会を開くことになっていて、ゼミが途中から人の心理に関する他愛もない雑談みたいになっていた。
それで「先生、何か面白い話を聞かせてくれよ」という流れになって、先生が話してくれた話。
先生は面白い人で、心理学に関する色々な話を閑話休題的に話すのが好きなんだが、そのネタの大体が眉唾物の、本当にあったかどうか分からないような話ばかりだった。
だけど、眉唾系の話なのに妙に説得力があるというか。
そんな話をするのが大好きな先生だった。
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以下、先生の話。
今から何十年か前、某国でとある実験が密かに行われたんだ。
実験の内容は閉鎖空間で感覚遮断を行うこと。
遮断する感覚は視覚で、おまけに時間の感覚も奪ってみようという実験。
最近では感覚遮断はヒーリングなどにも使われるけど、その頃は一般的じゃなかった。
被験者は重犯罪者で、司法取引か、もしくはそれに近い形で被験者になってもらったんだ。
被験者は薬で眠らされて、目から覚めたら完全に光の入ることのない閉鎖空間の中。
被験者は正真正銘の闇と、薬で眠らされていたから時間も判らない。
自分が今どこにいるかも判らない。
というか自分の置かれている状況さえも判らない。
そんな状況下での人の心理状態の変化を見てみようという訳だ。
※
結論から言うと、彼らはみんな実験で狂ってしまった。
人を狂わす要因として、時間の感覚の欠如がある。
みんな時間と言うと時計を思い浮かべると思うけど、そんな正確なものじゃなくていいんだ。
陽が昇って、沈んで、夜が来て、それで時間の流れが当たり前に判るだろ?
その感覚が全く判らなくなると、精神に異常を来してしまうんだ。
人間なんて脆いもんさ。
それともう一つ、それは人の持つ想像力だ。
そしてこの実験の本当の目的は、正に人の想像力を見極める実験だったんだよ。
※
みんなも悪夢を見たり、夜の帰り道でお化けなんかを想像しちゃう時があるだろ?
でもそれは大抵、今まで見聞きしてきた事、つまり自分の経験の記憶から脳内で合成されるもので、自分の脳の中の記憶以上の想像はできない訳だ。
だけど、彼らは見た。脳の中、最深部まで穿り返しても出てこないような恐怖を。
真の闇という極限の状況と、極限まで擦り減らされ、研ぎ澄まされた精神の中で。
彼らはその自分の想像に狂わされたんだ。ただの脳内映像だよ? そんなものに狂わされるんだ。
やっぱり人間なんて脆いもんだ。
え、何で彼らが見たものが想像の域を超えていたか判ったかって?
実験の後に狂った彼らに催眠をかけ、闇の中で見たものを聞き出したんだよ。或いは絵に描かせた。
聞いたものや描かれたものは、人外のものだった。
もちろん色んなものが出てくるんだ。
それこそお化けみたいものから、奴らの被害者とか。
初めはそんな可愛いもんだけど、時間が経つにつれて酷くなる。
催眠で実験の後半に入ったら、もう誰にも彼らが見たものが何かなんて分からなくなっていた。
だから、研究者はこう結論付けたんだ。
人の脳は限界を超えると、脳内の記憶以上のものを見させると。
それで、「最後に見たものは?」と聞いてみたんだって。
実験も満足の行くものだったし、おまけみたいな感じでね。
そしたら、全員が同じ答えだった。
「闇」
彼らはそれだけ答えた。
光が差さない闇だけの空間で、彼らはそれ以上の闇に飲み込まれたんだ。
最後にね。
一体彼らが見た闇ってどんな闇なのかね?
夜の闇じゃない本当の闇ってさ。