犬神様の蔵

蔵(フリー写真)

学生の時、友人と民宿に泊まった。

そこは古い民家のような所で、母屋の隣に大きな蔵があった。

民宿のおばあちゃんが言うには、その蔵には神様が祀ってあるから入るなとのこと。

そんなことを言われると、入ってみたくなるのが人情というもので…。

例に漏れず友人と連れ立って、こっそり蔵の中を覗いてみた。

覗いた僕らは唖然とした。

蔵の内壁には伊勢神宮にあるような神代文字が、赤い塗料でびっしりと書き込まれており、そこかしこにお札が貼ってあった。

やばいと感じた僕らはそそくさと部屋に戻り、その後はご飯を食べて酒を飲んでいた。

そうして夜も更けた頃、蔵の方から突然、

「ばんばん!!ばんばん!!」

という音が聞こえてきた。

蔵の扉を叩いているような音だった。

不審に思った僕らは、泊まっていた母屋の二階から蔵の方を見てみた。

蔵の扉は内側から強い力で叩かれていて、叩かれる度に凄い音を立てていた。

僕たちはその光景をただ呆然と眺めていた。

すると突然、蔵の扉が

「ばん!!」

と開き、中から人影が飛び出して来て、あっという間に外に走り去ってしまった。

目の錯覚かと思った。見間違いかと思った。

蔵から走り出て来たのは、犬の頭部を持った人間だったからだ。

その後、祟りなどには全く遭っていない。

ただ、その地方に犬神という神様が祀られていることだけは後で聞いた。

関連記事

ポコさん

私の住んでいた家の近くの公園には、いつもポコさんという大道芸人みたいなおじさんが週に3回来ていた。 顔は白粉か何かで白く塗り、眉毛は太く塗り、ピエロの様な格好でいつもニコニコして…

お稲荷さん

10年程前、父の田舎へ行きました。N県の山中です。夜は従兄弟達とお約束で怖い話になりました。 そろそろネタも尽きてきた従兄弟のお兄ちゃんに、私がもっともっととせがむと、「実はお隣…

裏山

危険な好奇心(後編)

あれから5年。俺達3人はそれぞれ違う高校に進んで、すっかり会うこともなくなっていた。 あの「五寸釘の女」事件は忘れることが出来ずにいたが、記憶は曖昧になり、その恐怖心はかなり薄れ…

リゾート(昼)

リゾートバイト(前編)

これは夏休みも間近に迫った大学3年生の頃の話。 大学の友人の樹と覚、そして修(俺)の3人で、海に旅行しようと計画を立てたんだ。 計画段階で、樹が「どうせなら海でバイトしない…

廃工場(フリー素材)

溶接

大学一回生の冬。俺は自分の部屋で英語の課題を片付けていた。 その頃はまだそれなりに授業も出ていたし、単位も何とか取ろうと頑張っていた。 ショボショボする目で辞書の細い字を指…

田舎の風景(フリー写真)

生贄の風習

俺の親父の実家がある村の話。 父親の実家は、周囲を山にぐるっと囲まれた漁村だ(もう合併して村ではないが)。 元の起源は、落ち延びた平家の人間たちが隠れ住んだ場所で、それが段…

夜明けを待つ山

ヤマノケ — 山で出会ったもの

一週間前のことだ。娘を連れてドライブに出かけた。特別な目的もないまま、なんとなく山道を進み、途中のドライブインで食事をとった。 そこで、ちょっとした悪ふざけのつもりで、舗装され…

田舎の夏の風景

お稲荷さんに魅入られ

今からおよそ十年前のことです。 私は、父の田舎であるN県の山間部を訪れました。夏の帰省で、親戚一同が集まっており、夜には恒例のお楽しみとして、従兄弟たちと怪談話をしていました。…

鏡の向こう

姉の最期の決断

これは、私の知人である女性から聞いた、決して笑い話にはできない実話です。一部の詳細は伏せてありますが、内容のほとんどは事実に基づいています。 ※ 話してくれたのは、現在2…

江ノ島

海水浴で見た親子

俺は毎年7月下旬の平日に有給休暇を取り、湘南まで一人で海水浴に行っている。 土日は人が多いし彼女や友達と一緒も良いけど、一人の方が心置きなく一日砂浜に寝そべってビールを飲み、日頃…