人の塊
公開日: 本当にあった怖い話 | 死ぬ程洒落にならない怖い話
2年前の話を。
この話は一応口止めされている内容のため、具体的な場所などは書けません。
具体的な部分は殆ど省くかボカしているので、それでも良いという方だけお読みください。
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高校3年の夏休みの事。
俺と友人5人は、受験勉強でかなり疲れが溜まっていた事や、高校最後の夏休みということもあって、どこかへ旅行に行こうと計画を立てた。
ただ、もう夏休みに突入していたため、観光地はどこもキャンセル待ちの状態で、宿泊地を探すのにかなり苦労した。
そしてやっとの事で近畿地方の高原のような、観光地のペンションにまだ空きがあるという情報をネットで見つけた。
まあ、騒いでも苦情が無いならどこでも良いかと思いそこに決めた。
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旅行当日、早朝に出発し昼前に現地に到着したのだが、そこで少し問題が起きてしまった。
どうやら旅行代理店とペンションの管理組合との間で伝達ミスがあったらしい。
俺達は今日から2泊3日で予約していたにも関わらず、ペンションの方には宿泊予定が今日から3日後と伝わっていて、今は満室で一つも空いていないと言い出した。
俺達はここまで来てそれはないだろうと文句を言うと、最初はふもとの町にあるホテルなどを紹介されたが、俺達はただ観光に来た訳ではなく、夜中に騒いでも苦情が来ないような場所が条件だったため、かなり食い下がった。
するとペンションの人が「じゃあ、ちょっと待っていて欲しい」と携帯でどこかへ電話をし始めた。
電話の内容はよく判らなかったが、何となくかなりモメていたようだ。
そのまま15分ほど電話していたが、どうやら話がまとまったようで、「近場に貸し別荘があるので、そこでどうだろうか? 料金はこちらの不手際なのでペンションの代金の3割引で良い」と提案された。
俺達はまあそれならと納得したが、そこから少し雲行きが怪しくなった。
どうもその貸し別荘は長い事使われていなかったらしく、準備や掃除に少し時間がかかるらしい。
その間、俺達には交通費と水族館の割引券を渡すので、そこで時間を潰して夕方にまた来て欲しいとの事だった。
その水族館はペンションのある場所からかなり離れていた。というか県外の某大都市にある水族館で、俺達が見終わって戻って来る頃には午後18時近くになっていた。
俺達は「こんなに準備に時間かかるってどれだけ放置されていたんだよ」「廃墟とかじゃねーよな?」「なんか怪しいんだけど」などと不安を口にしながら管理事務所に向かった。
※
ペンションに戻って来ると、先程とは違うおじさんが待っていた。
おじさんは準備が出来たので案内すると言い、歩いて15分ほど離れた森の中にある別荘へ案内された。
そこは本当に完全に森の中で、周囲には何も無く、余程大声で騒いでもまず苦情が来ないような場所だった。
おじさんは「暫らく使われていなかったので手間取ったが、電気も水道もガスもちゃんと通っているし、携帯は通じないが管理小屋への直通の電話もある。何の問題も無い」としきりに説明をし始めた。
俺達は何かおじさんに必死さが感じられ、かなり不安になってきたが、今更どうしようもないので別荘の中に入った。
別荘は外観もそうだったが、洋風のかなり古い造りで、築30年か40年くらい経っていそうな建物だった。インテリアもそれに見合ってかなり古臭い。
ただし、使われていなかったという割にかなり綺麗だった。
今から思うと、綺麗と言うより「人が使った痕跡が殆ど無い」と言った方が良い感じだったが。
※
一通り別荘内の説明を聞き、建物も2階建てで広いしまんざらでもないなと荷物を降ろし、夕飯のバーベキューの準備をしようとしていると、おじさんが去り際におかしな事を言い出した。
ここは夜中に熊が出る可能性があるので、深夜の外出は控えて欲しいと言う。
俺達はなぜか、かなり念入りに深夜の外出をしない事を約束させられた。
『ペンションの密集地から15分しか離れていないこんな場所に…?』と皆疑問に思った。
しかし、まあ恐らくガキが夜中に出歩いて問題を起こしたり事故に遭うと面倒なので、怖がらせるような事を言って脅かしているのだろうと納得した。
一日目はそんな感じで過ぎ、晩飯を食った後で夜中の森の中を適当に散策し、花火をしたりゲームをしたりと遊んで深夜2時頃に寝た。
その日は特におかしな事は無かったのだが、次の日、友達の一人が変な事を言っていた。
そいつは夜中に小便がしたくなり、トイレに行くと外から太鼓の音が聞こえてきたらしい。
俺達は何かの聞き間違いだろうと言ってそのまま流し、本人も気のせいだろうと納得したが、その日の夜に事件が起きた。
※
その日、晩飯の焼肉を食った後、暇になってする事が無かった俺達は、昼間見つけた林道へ肝試しに行く事にした。
肝試し中は何事も無く、俺達は「つまんねーな」と別荘に戻ると、入り口に20代後半くらいの男が立っていて、ドアノブを握っている。
時間は夜22時頃。こんな時間に管理人の人が来るとも思えず、「空き巣か?」と俺達が近付いて行ったのだが、その男はドアノブを握ったままこちらを振り向こうともしない。
足音も声も聞こえるのだから、泥棒や不審者の類なら逃げそうなものだが、そいつは10メートルくらいまで近付いても微動だにしない。
何か気持ち悪かったが、メンバーでリーダー格の友達と俺が「おっさん何してんだよ」と言いながら近付いて行き、男の目の前まで来たのだが、それでも動く気配が無い。
埒が明かないので友達が「聞こえてないのかよ!」とそいつの腕を引っ張った。
その瞬間、俺と友達は「うわあああああああああ」と大声を上げて後ろへ飛びのいた。
何故飛びのいたかと言うと。
そいつの腕を友達が掴んで引っ張った時、その腕の手首から10センチくらいの場所が、まるでゴムのようにグニャッと、関節ではないところまで曲がったためだった。
何事かと他の友達が近付いて来たのだが、その時になって男はこちらへ振り向いた。
見た目は普通なのだが、目はどこを見ているのかよく分からない風で、焦点が定まっておらず、口をだらんと開けて涎を垂らしている。
その時になって気付いたのだが、服装もかなりボロボロで、どう見ても普通の人には見えない。
俺達が呆然と男を見ていると、男は俺達がまるで見えていないかのように、そのままフラフラと森の中へ去って行ってしまった。
※
俺達はあまりの出来事に動揺し、暫らくその場から動けなかった。
しかし、そのままそこに居る訳にもいかず、俺達はふと我に帰り、大急ぎで別荘内に入りドアの鍵を閉めると、全員で室内の全てのドアの鍵をチェックし、それが終るとリビングに集まった。
そして皆「なんだよあれ…」「幽霊か?」「でも触れたぞ」「あの腕の曲がり方ありえないだろ…」などとパニックになって興奮気味に話していると、今度は外から
「…ドン…ドン…ドン」
と微かに太鼓のような音が聞こえて来た。
その音はゆっくりとこちらへ近付いて来ているようで、俺達は皆押し黙り、聞き耳を立てて音のする方に集中していた。
音が庭辺りにまで近付いた頃、不安が最高潮に達した俺は我慢できなくなり、リビングのカーテンを開けて外を見た。
すると…。
暗がりでよく見えないが、何か大きな球状のものが転がりながらこちらへ近付いて来るのが見えた。
太鼓のような音はその球状の物体から聞こえているらしく、「…ドン」と音がすると転がり、また「…ドン」と音がすると止まる。
それを繰り返しながら、大通りから別荘へ向かう道を、ゆっくりとこちらへ向かって来ている。
大きさは5~6メートルくらいあったと思う。
他の友達も窓を見たまま動かない俺が気になったらしく、全員窓の側へやって来て「それ」を見ていた。
暫らく皆黙ってその様子を見ていたのだが、暗がりでよく分からないので正体が掴めず、誰も一言も話さずにずっと「それ」を凝視していた。
するとかなり近付いた頃、「それ」は玄関近くまでやってきたため、玄関に付いている防犯用のライトが点灯した。
その瞬間、俺は「なんだよあれ!洒落になんねーよ!」と慌ててカーテンを閉めた。
カーテンを閉める前、一瞬ライトに照らされた「それ」は、何と表現したら良いのか…「無数の人の塊」とでも言うような物体だった。
老若男女様々な人が、さっきの男と同じように口を開け涎を垂らし、どこも見ていないような焦点の合っていない目で、関節などとは関係なく体と体が絡みつき、何十人もの人が一つの「塊」となって転がっていたのだった。
俺以外も全員その「人の塊」を見たため、あまりの恐怖に何も言えず、俺達はリビングの端の方に一塊になりガタガタと震えながら「どうなってんだよ…」「なんだよこれ…」などと不安を口にしていた。
※
暫らくすると、太鼓の音のような「ドン」という音が聞こえなくなった。
「それ」がいなくなったのかどうか分からない俺達は、そのままリビングの端でじっとしていた。
すると、今度は玄関の方から
「ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!」
と激しくドアを叩く音が聞こえてきた。
俺は恐怖と不安で耳を塞ぎ、他のやつも皆耳を塞ぎ必死で今の事態に耐えていたのだが、暫らくすると今度は建物中のあちこちから
「ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!」
と、窓と言わず壁と言わず、あちこちを大勢の人が滅茶苦茶に叩く音が聞こえてきた。
耐えられなくなった友達が、「電話しよう。管理事務所直通の電話あっただろ、あれで助けを呼ぼう」と言った。
俺達はハッとその事に気付き、急いで玄関側にある電話に急いだ。
俺が電話を取り、「直通」と書かれたボタンを押すと、2、3回のコールの後、別荘まで案内してくれたおじさんが電話に出た。
おじさんに必死で事情を話すと、おじさんが独り言のように「…まさか、まだ出るなんて…」と呟いた。
そして「説明は後回しで、リビングに神棚があるよね? そこにお札とセロテープが入っているから、そのお札をドアに貼って待っていなさい」と言った。
俺達は意味が解らなかったが、他に解決策も無く、とにかくリビングへ戻り神棚を探す事にした。
※
神棚は部屋の端の方の天井近くにあった。
椅子を使って中を覗き込むと、確かにお札とセロテープが入っている。
俺達は急いでそれを出すと、玄関とリビングの入り口のドアと窓にお札を貼った。
窓にお札を貼る時、なるべく外を見ないようにしていたのが、一瞬だけ外を見てしまった。
すると、青白い腕が数本、窓をガンガン叩くのが見え、更に腕の向こうに、どう考えても腕の位置とは不自然な形で人の顔が見えた。
その顔はやはり他と同じように焦点が合っていない目でだらんと口を開けていた。
俺は外で「それ」がどんな状態になっているのか、恐ろしくて考える事も出来なかった。
※
何時間くらい経った頃だろうか…。外が明るくなり始めた頃、壁やドアや窓を叩く音は聞こえなくなった。
それでもまだ「それ」がいつ来るかもしれないと思うと動けず、そのままじっとしていると、遠くから車がこっちへ向かって来る音がし始めた。
車が庭に止まると、数人の足音が聞こえてきて、ドアのチャイムを押す音と、「おーい、大丈夫か?」と声が聞こえてきた。
俺達は「助かった…」と大急ぎで外に出ると、最初にここの手配をした人と案内した人、それと他に3人のおじさんが来ていた。
手配をした人と案内をしてくれた人がすまなそうに、
「本当にすまない、もう大丈夫だと思っていた。事情を説明するからとにかく荷物をまとめて来てくれ。ゴミとかはそのままでいいから」
と言い、俺達はその通りにして別荘を出た。
※
車に乗せられ、俺達は神社へ案内された。
一緒に来ていた3人の人はその神社の関係者らしい。
俺達はホッとして緊張感が解けたのと、助かったと言う気持ちもあったが、それ以上に怒りが湧いてきて「何であんな場所へ泊めたんだよ!」と怒った。
すると、神社の神主さんらしき人がこんな話をし始めた。
あそこは昭和40年代までただの森だったのだが、観光地開発をするということで、40年代の終わり頃に人の手が入った。
それで順調に開発が進んでいたのだが、あの別荘を建てた昭和50年代前半頃からおかしな事が起こり始めたとか。
別荘が原因なのか、開発そのものが原因なのかは今でも判らないらしいが、とにかくあの太鼓の音や人の塊がその頃から出没し始め、最初の別荘の持ち主とその次の持ち主は、あそこに宿泊中に失踪してしまったらしい。
それで売りに出され、今の管理組合が所有する貸し別荘となったのだが、それからも何度もあの人の塊は現れ、被害者は出なかったものの目撃者から散々苦情を言われたので、神主さんが10年ほど前に御払いをしたとか。
それ以後、貸し出されてはいなかったが、掃除や整備に来た人たちは誰も「それ」を見かけていなかったため、もう大丈夫だろうということで俺達に貸したらしい。
その結果が昨晩の事件らしい。
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俺達は完全に巻き込まれた被害者なので、散々文句を言った。
すると管理人の人がここまでの交通費と食費はこちらが持つ事、別荘のレンタル費用も要らないし、次に旅行をする時は大幅に割引するように代理店に口利きもする、だから本当に申し訳ないけどこの事は黙っていて欲しいと頭を下げてお願いしてきた。
俺達は何か言いくるめられた気もするが、警察にこんな話をしてもどうせ信じてもらえないだろうからと、渋々その話を飲むことにした。
※
以上です。
上に書いたように、そういう事情なので詳しい地名などは書けません。
ちなみに、去年割引してくれるというので旅行代理店に電話した時に聞いたのですが、あの別荘は取り壊され、今は更地になっているそうです。