走る男
公開日: 死ぬ程洒落にならない怖い話
とある休日、Aは余りにも暇だったので近所の古びたレンタルショップにビデオを借りに行った。
するとそこはもう閉めるらしく、閉店セール中だった。
店内には古いビデオをどれでも一本百円で売り払っているコーナーがあった。
そこでAはどうせなら埋もれている名作を見つけて得しようと、張り切ってビデオを漁った。
しかし殆ど聞いたこともない駄作ばかりで、Aはガッカリした。
当たり前だ、だから百円なのだ。
暫くして諦めかけたAだが、一つだけ目に留まるビデオがあった。
『走る男』
そうタイトルだけ記された何とも斬新(?)なパッケージのビデオ。
『しょうがない、どうせ百円だし暇潰しになればそれでいいか』
※
Aは自宅に帰ると早速ビデオを再生した。
タイトルも出ずに、いきなりホームレスのようなボロボロの服を着た痩せ型の男が走っている映像が映し出された。
『手に何か持っている…鋸だ。何で鋸なんか持っているんだ?』
それにしてもこの男、こんな全力疾走しているのにバテるどころか汗一つかかず、スピードを落とす気配さえ一向に見せない。
『ん…? そう言えばさっきからこの男、見たことあるような道を走ってないか?』
Aは段々と胸騒ぎがし始めた。…嫌な予感がする。
『あれ? この道は…? この角を曲がったら…?』
次のカットで胸騒ぎは確信になった。
ああ、ヤッパリだ。この男は家に向かって来ている。
しかし、気付いた時には男は家のすぐ前まで着いていた。
※
いつの間にかカメラは男の視点になっていた。
画面は古いアパートのAが住んでいる二階部分を映し出している。
急いでベランダから外を覗くと…居る。あの男が。
男は迷わずベランダの柱を鋸で切り始めた。
訳の解らないAは、
「おい!何すんだよ!やめろよ!」
と男に怒鳴った。
すると男はAを見上げた。Aは思わず息を呑んだ。
画面からは確認出来なかったが、男は両目がロンパッてカメレオンのようだ。
そしてボロボロの歯を剥き出しにしてニヤッと笑い、走り出して視界から消えたかと思うと、階段を駆け上がる音が聞こえる。
『ヤバい!ここに来る!』
鍵を閉めようと玄関に急ぐが、男はもうそこに立っていた。
居間まで追い詰め、鋸を振りかざす男。Aは咄嗟にリモコンで停止ボタンを押した。
その瞬間、男は居なくなっていた。鋸も無い。
Aはすぐにビデオからテープを引っ張り出してゴミ箱に捨てた。
Aの部屋のベランダの柱には、深々と鋸の痕が残っていた。