アケミくるな

公開日: 心霊体験 | 本当にあった怖い話

abstract-art-faces-wallpaper-2

僕は運送大手の○川でドライバーをしていました。

ある夜、○○工場内(九州内にあります)で作業中、どうにも同僚Sの様子がおかしいことに気が付きました。

Sは仕事中だというのに、ある一点を睨みつけ、小さな声で何か呟いているのです。

不思議に思い近付くと、Sの声が微かに聞こえてきました。

「アケミくるな。アケミくるな。アケミくるな」

彼はひたすらそう呟いていました。

当時、会社には霊感が強いドライバーが二人いました。SとAです。

Aは、生まれつき霊が見えるとのことで、よく何もない空間を指差しては「あそこに青いお婆さんがいる」などと言っておりました。

Aは霊に対してある程度の耐性があるらしく、Aの言うことには、霊には大丈夫なやつとヤバイやつとの二種類があるそうです。

なんでも大丈夫なやつは全く以て生者に感心を持たずに、ただ決まった場所にいるだけだとか。

そういうのは大抵が何日もすればいなくなるそうで、全く無害なのだそうです。

A曰く、人に興味を持たないのは大丈夫らしいのです。

それに対してヤバイやつは、いつもこちら側、つまり生者を執拗に見ているらしいのです。

普段私たちの周りにもいるようで、その存在を知っているそぶりを見せると付き纏い、時には命に関わる問題を起こすそうです。

ですので、必ず見えないフリをして近寄らないようにしなくてはいないそうなのです。

Sは霊感があると言ってもAとは少し様子が違いました。

Sが霊の存在を感じるようになったのは、つい一年程前からなのです。

彼はそれまでは全く霊の存在を感じた事などなかったそうです。

きっかけは信じられない話ですが、ある遊園地のお化け屋敷に入り、出た後で急に見えるようになったというのです。

S曰く最初は霊だとは思わず、お化け屋敷から出ると、突然遊園地に顔つきの暗い人が増えたので不思議だったとのこと。

Sには、Aのようにヤバイやつと大丈夫なやつとを区別することはできませんでした。

話を戻します。

呟くSの様子を見て、僕は心配になり「どうした?」と声をかけました。

Sは返事をせず、ただ必死に呟いています。

「アケミくるな。アケミくるな。アケミくるな」

ただならぬSの様子に、霊絡みのことが起きていると思った僕は、Aに報告しに行きました。

AはSを見るなり言いました。「とてもヤバいやつとSが見つめ合っている」と。

僕には何も見えませんでしたが、どうにも薄笑いを浮かべた不気味な女が、Sの傍で彼をじっと睨んでいるのだそうです。

Aは言いました。「ああいうのは絶対に目を合わせたらいけない。気が付いていないフリをしなければ。今日はSに近寄らない方が良い」と。

そう言うと事務所から塩を持ってきて自分と僕に振りかけました。

それから退社時間まで僕はSに近寄らないないよう作業しました。

Sは時折首を振ったり、泣きそうな顔になったりしていました。

その様子はまるで、誰かにお願い事をしているようでした。

その日の退社時、僕の車のキーが無くなっていました。

困った僕がどうしようかと考えていると、背後からSが声をかけてきました。

「家まで送るよ」

Sの顔は真っ青でした。微笑んでいるものの、目がやけに真剣で僕は怖くなりました。

Aの言葉が浮かび僕は断りましたが、Sは頑なに送ると言い張ります。

その抵抗し難い迫力に押され、とうとうなし崩し的に僕は受け入れていました。

しかし、駐車場に停めてあるSの車の前に立った時、得も知れぬ嫌な予感を感じたのです。

『絶対に車には乗ってはいけない』そう直感しました。

僕は必死になってSを説得しました。今日は事務所に泊まるから良い。

しかしSは納得しません。次第に声が荒くなります。そうこうするうちにAが通りかかりました。

事情を知ったAは、自分が僕を送るとSに言いました。

Sは一変して塩らしく頼むから送らせてくれと言いましたが、僕は断ってAの車に乗り込みました。

Aの車が発進し、遠ざかるのをSはただ見ていました。

車内で僕はAに礼を述べました。

Aは真面目な顔をして言いました。

「実はな、途中から薄気味悪い女のヤバいやつは、Sの傍から離れてお前の傍にいたんだ。

途中からいなくなったから、お前が気付かないと諦めたんだと思ったんだが、さっきSの車の助手席に座ってお前をじっと見ていたんだよ。

あのまま乗っていたら、多分お前の家まで憑いて来ていたぞ。

ただ、Sは危ないな。完全に目をつけられてる。あいつからしばらく離れたほうがいいぞ」

翌日、Sは会社を無断欠勤しました。

そのまま1週間経っても来ない彼を心配して上司が見に行きましたが、彼は家にいませんでした。

家族の話では、1週間前から家に帰っていないらしいのです。

とうとう1ヶ月が過ぎても彼は帰って来ませんでした。

会社はSを解雇し、家族が捜索届けを出したと聞いたのですが、その後Sがどうなったのか僕には判りません。

ただ、町でSの車に似た車を見るとつい隠れてしまうのです。

関連記事

シャワー(フリー写真)

誰かの髪

数年前、私は妹と東京で二人暮らしをしていました。 元々は二人別々に部屋を借りていたのですが、二人の家賃を合わせると一軒家が借りられるという事に気付き、都心から多少離れてはいるもの…

良い心霊写真

写真店のご主人から聞いた話ですが、現像した写真におかしなものが写り込む事は珍しくなく、そういったものは職人技で修正してお客さんへ渡すそうです。 このご主人ですが、一度だけ修正せず…

トンネル

帰らない友人

うちの近くに、背の高い草が茫々に生い茂った空き地がある。 陽の光が当たり難いだけでなく、元から妙に薄暗いため、非常に不気味な場所だ。 そんな場所は、やはり小中学生には格好の…

ホテル(フリー素材)

鶯谷のホテル

これは実際に体験した不思議な話です。 皆さん、鶯谷をご存知でしょうか? 山手線沿線でありながら最も人気の無いエリア。江戸時代にあった遊郭が今も尚息づくソープランド街「吉原」…

つんぼゆすり(長編)

子供の頃、伯父がよく話してくれたことです。 僕の家は昔から東京にあったのですが、戦時中、本土空爆が始まる頃に、祖母と当時小学生の伯父の二人で、田舎の親類を頼って疎開したそうです。…

林(フリー写真)

墓地に居た女性

霊感ゼロのはずの嫁が、5歳の頃に体験した話。 嫁の実家の墓はえらい沢山ある上に、あまり区画整理がされておらず、古い墓が寺の本堂側や林の中などにもある。 今は多少綺麗に並んで…

新宿地下道

3ヶ月程前の出来事。新宿の某百貨店の地下道を通って某大型書店へ通じる地下道があるのだが、その道を歩いていた時の事。 通路に入って暫らく歩いていると、床と壁の間くらいのところに人間…

ピアノ騒音殺人事件

新興住宅地で起きた事件で、新興住宅地の欠陥が現れたものとして、有名なピアノ殺人事件を取上げる。 これは1974年平塚市で起きた事件で、当時大変話題になった事件であり、かつ過去に繋…

薄暗い校舎の廊下(フリー写真)

入れ替わった鬼

あまりにも不思議で、背筋が寒くなった話。 当時、中学3年生だった私。師匠というあだ名の女の子と仲が良くて、よく一緒に騒いでいた。 あれは確か冬の雨の日のことだった。 …

トンネル(フリー写真)

友達だよな

ある日、数人の大学生が飲み会をしていた。 彼らは全員高校の時からの友達同士で、話題には事欠かなかった。 そして段々と盛り上がって来て、ちょっと肝試しに行こうという話になった…