おっぺけ様

田舎の風景(フリー写真)

これは友人の実家へ泊まりに行った時、友人(Aとします)のお爺さんから聞いた話です。

友人の実家は山奥の集落にあり、小さい頃から夏休みになると一緒に泊まりに行って、山遊びや川遊びを楽しんでいました。

前年と同じように川でカジカ突きをして帰る途中の事です。

急に一緒に居た友人の弟(小学生、以後Bとします)が

「ぎゃーっ!」

と声を上げました。

振り返ると一瞬、顔の左目の辺りがぐにゃーっと変形しているように見えました。

『えっ?』と思った時にはその歪みは消えていたのですが、その後Bは気を失ってしまいました。

焦った私とAは、Bを代わる代わるおんぶして、急ぎBの実家に戻りました。

お爺ちゃんに事の顛末を話すと、お爺ちゃんは思い詰めたような表情で

「おっぺけ様だ…」

と呟き、

「お前らはちょっと待っとれ」

と言ってBを車に乗せ、近くのお寺に連れて行きました。

私とAは家に残され、訳も解らずお爺ちゃんの帰りを待っていました。

二時間ほどでお爺ちゃんは戻って来たのですが、Bは一緒ではありませんでした。

お爺ちゃんは、

「Bは暫く寺に預かってもらう事になった」

と言い、おっぺけ様について教えてくれました。

おっぺけ様とは、地元に古くから伝わる妖怪のようなもの(実際何なのかはよく分からない)だそうです。

村で代々、各世代に一人、おっぺけ様に取り憑かれる者が出るのだとか。

姿形は人間のようなカエルのような感じで、アニメ好きのお爺ちゃんに言わせると『千と千尋の神隠し』に出てくる番台蛙によく似ているそうです。

お爺ちゃんが若い頃に山で一度だけ見たことがあるらしいのですが、見た瞬間に悪寒が走り汗が吹き出して、一目でヤバいモノだと分かったそうです。

その時は気付かれる前に一目散に逃げ帰り、事無きを得たらしいのですが、

「目が合っていたら取り憑かれてたかもしれん」

と言っていました。

そしておっぺけ様に取り憑かれると顔がおっぺけ様そっくりになり、発狂したようになった後、山に走って行ったきり行方不明になってしまうそうです。

その翌日、玄関先に白い皿が家族の人数分置かれており、それを生涯使い続けなければならないとか。

その皿を使っている限りはその家族は災厄から守られ安泰に暮らせるので、昔は敢えて子供を一人山に置き去りにし、おっぺけ様に差し出していた時代もあったようです。

流石に今はそんな生贄のような事はしていないようですが、おっぺけ様自体は変わらず山に居て、世代に一人取り憑かれる者が出るそうです。

そんな理由から、Aの実家のある村では男子が二人以上になるように子作りをするそうです。

一人っ子の長男がおっぺけ様に憑かれてしまったら、跡取りが居なくなってしまうからです。

そう言われてみれば、Aのお父さんも姉三人含めた五人姉弟の末っ子でした。

Aのお父さんの代におっぺけ様に取り憑かれたのは隣の家(と言っても田舎なのですごく離れているのですが)の娘さんでした。

その時は娘さんが山に駆け込む前に取り押さえたそうなのですが、怖くなった父親が蔵に閉じ込めたのだそうです。

翌日、やはり玄関先に白いお皿が置いてあり、やけを起こした父親がその皿を叩き割ってしまいました。

その結果、まず父親が農作業の最中に突然倒れ、そのまま亡くなってしまいました。

続いて母親が精神に異常を来して入院。

続いて長男がバイク事故で亡くなってしまったそうです。

おっぺけ様の話を聞き終わった私とAは、恐ろしいのとBが心配なのとでまともに眠れるはずもなく、泣きながら夜を明かしました。

翌日になってもBは寺から帰って来ず、私とAだけ先にBの実家を後にしました。

戻った後、Aは元気が無くなり顔色もすぐれない感じで、二ヶ月くらい経った頃に転校して行きました。

Bは寺から戻って実家の方に居たようで、あれ以来、姿を見る事はありませんでした。

おっぺけ様のようになってしまったのかどうかは、とても気まずくて聞けませんでした。

それ以来、Aとは疎遠になり、連絡を取っていません。

Aの家に実際に白い皿が置かれていたのか、それを使っているのかは今も判らないままです。

関連記事

裏山

危険な好奇心(中編)

山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。 『このカメラに納められた写真を見せれば、五寸釘の女は捕まる。俺達は助かる』 その一心だけで走った。 途中でカメラ屋に寄り現像を依…

鬼が舞う神社

叔父の話を一つ語らせてもらいます。 幼少の頃の叔父は、手のつけられない程の悪餓鬼だったそうです。 疎開先の田舎でも、畑の作物は盗み食いする、馬に乗ろうとして逃がすなど、子供…

田舎の景色(フリー写真)

よくないもの

自分、霊感ゼロ。霊体験も経験無し。 だから怖い怖いと言いながら、洒落怖を見てしまうのさね。 何年か前、当時大学生だった親友Aから奇妙な頼まれ事があった。 そう…ちょう…

田舎の夕焼け(フリー素材)

辰眼童(シマナオ)さま

もう8年前になるかな…。 当時はまだ高校生で、夏休みの時期でした。 6年ぶりに遠くに住んでる祖父母に会うと父が言いました。 俺は夏休みもそろそろ終わりで、遊ぶ金も使い…

学校の校庭(フリー素材)

逆上がりさん

小学生の頃、学校の七不思議が幾つもありました。 それはとっくに七不思議を超えていて、私が知る限り50個はあったのです。 その中に『逆上がりさん』という七不思議があって、当時…

地下のまる穴

リングの向こう側

これは十七年前、高校三年の冬に経験した出来事である。 当時の私は、後に失われることになる記憶を補うため、手帳に断片的なメモを残していた。 本稿は、その手帳と微かに残る実体…

冬景色(フリー写真)

おあしという神様

『おあし』という神様の話。 父が若い頃、家に親戚のお嬢さんを預かっていたらしい。 お嬢さんはまだ高校生で、家庭の事情で暫く父の家から学校に通っていた。 父の実家は当時…

山(フリー写真)

テンポポ様

俺の地元には奇妙な風習がある。 その行事の行われる山は標高こそ200メートル程度と低いが、一本の腐った締め縄のようなものでお山をぐるりと囲んであった。 女は勿論、例え男であ…

田んぼ

蛇田

自分の住んでいる所は田舎の中核都市。 田んぼは無くなっていくけど家はあまり建たず、人口は増えも減りもせず、郊外に大型店は出来るものの駅前の小売店は軒並みシャッターを閉めているよう…

山神様

これは、俺の曽祖父が体験した話です。大正時代の話ですので大分昔ですね。 曾じいちゃんを、仮に『正夫』としておきますね。 正夫は狩りが趣味だったそうで、暇さえあれば良く山狩り…