カナちゃんのメッセージ

hdr-photography-forests-landscapes-nature-parks-1719385-1920x1200

ここでの俺は神楽と名乗ることにする。

断っておくが、本名ではない。

今はサラリーマンをしているが、少し前までは神楽斎という名で霊能者をしていたからだ。

雑誌にも2度ほど紹介されたことがあるから、もしかしたらここで知っている人もいるかもしれない。

そんな俺だが、いわゆる『霊感』を持っているので、小さい頃から霊体験は数多くある。

俺自身、命を落としそうになったものもあるが、そういう霊体験を一つずつ紹介していきたいと思って書いている。

ただ、いきなり長丁場な話を思い出しながら書くと挫折しそうなので、まずは短めな霊体験から書いていく。

この話は、俺の体験談だ。

俺が幼稚園に入る前、いわゆる公共団地に住んでいた。

団地の近くにはいくつか公園があり、団地住民の子供はよくそこで遊んだものだ。

俺もその一人。

一番端にある公園が好きでよくそこに行ったものだった。

水飲み場と砂場とベンチしかないので、子供は滅多に来ない。

だから、俺は好きだった。

霊感を持っているがゆえに、周りから薄気味悪がられていたのだ。

「あそこに○○がいる」

と指差した方向に何も見えなければ近寄りたくなくなるのは当然のことだ。

自然と俺は一人で遊ぶようになって行った。

この公園で、俺のお気に入りといえば砂場だった。

砂を盛って山を作り、底を掘ってトンネルを作る。

その後は赤いミニバケツに水を入れ、トンネルに流し込む。

こんなことを毎日飽きもせずやっていた。

ある日、俺が行くと見たことない女の子がベンチに腰かけていた。

とても可愛らしい。どことなく俺に似ているのは気のせいだろうか。

周りを見ると親はいない。ということは団地の子だろう。

「お名前なんてゆーの?」

「カナ」

「一緒に遊ぶ?」

「うん」

こんな会話だったと思う。

俺らはいろんな話をしながらトンネルを掘って遊んだが、残念なことに会話の内容までは思い出せない。

そうこうしているうちに、辺りは暗くなり始め、夕日が沈みかけていた。

「もう帰らなきゃ。お母さんに怒られる」

「カナは…もうちょっといる」

「団地に住んでるの?」

「うん」

「じゃあこれ貸してあげるよ。明日また来るから返して」

「わかった」

俺は黄色の柄が付いた緑色のシャベルと赤いバケツを貸してあげた。

団地に帰ると、お母さんに友達ができたことを報告した。

「あら、よかったわねー。どこの子?」

「うーん、わかんない。だけど団地に住んでてカナちゃんって言うんだって」

「ふーん。また遊べるといいねー」

その翌日、昼頃に公園に行くとカナちゃんはベンチに座っていた。

「こんにちは」

と互いに挨拶を交わし、また砂遊び。

遊びの時間は不思議である。あっという間に時間が過ぎてしまう。

夕方になった時に買い物から帰宅する母を見かけた。

この公園の先には商店街に続く道があるのだ。

「お母さーん」

俺は母に駆け寄り、今までにない巨大富士山とタワーにトンネルを織り交ぜた海上都市を見せたかった。

「あら、神楽。今日はカナちゃんとは遊んでないの?」

「えっ!?カナちゃんと遊んでいるよ。今までずっと作って…」

振り返るとカナちゃんはいなかった。

「あれ? おかしいな。カナちゃん帰っちゃったのかな…隠れているのかも!」

と茂みを探してみたが、見当たらない。

「…もう遅いから帰りましょ、神楽。夜ご飯のお手伝いして」

「えーやだー」

その日の夜、俺は原因不明の高熱にうなされた。

40度を超えていたらしい。

うなされながら、

「カナちゃん…カナちゃん…」

と名前を呼び続け苦しむ俺。

そんな時、父と母は俺の体の上に白い球体が浮かんでいたのが見えたらしい。

父と母は必死に叫んでいた。

「神楽を連れて行かないで!お願い!」

「香奈のこと忘れたことなんて一度もない!頼む!神楽だけは…」

俺には姉がいたらしいのだ。初めての子供で女の子が産まれると分かってから、既に『香奈』と名前を付けてお腹に呼びかけていたそうだ。俺も驚いたが。

いよいよ出産となったが、姉は死産だったらしい。

しばらくは母がとても落ち込んでしまい、なんとか元気を取り戻した時に俺が産まれたというわけ。

道理で俺は大事にされてた感があるな、と感じた。

次の日の夕飯、俺は食欲も出てきてカレーを食べていた。

「カナちゃん、夢の中で言ってたよ。

『お母さん、お父さん、産んでくれてありがとう』って。

『またお母さんのお父さんの子供になりたい』だって」

それを聞いた母は声を出して泣き出した。

「ありがとう」と「ごめんね」を繰り返して…。

父は涙を流しながら、しかしぐっと堪えるように無言でカレーを食べ続けた。

後日談

大人になってから母に聞いた話だが、俺の熱が下がった日は姉の誕生日かつ命日だったそうだ。

どうやら俺は姉に助けられたらしい。確かに怖い感覚はなかった記憶がある。

そして翌年…妹が産まれた。

どことなくカナちゃんに似ているのは気のせいだろうか。

笑った顔がそっくりだった。

関連記事

夜の森(フリー写真)

塀の向こう側

私が十数年前、下○市に住んでいた頃の出来事です。 当時は新聞配達のバイトをしていたのですが、一軒だけとても妙なお客さんが居りました。 通常の配達順路を大きく外れている上、鬱…

ハイハイ

学生の頃、バイト先の店長から聞いた体験談です。 ある日、店長が友人数人と居酒屋で飲んでいた時のこと。 みんな程よく酔いが回ってきた頃、一人だけ酔い潰れていた人がいました。 …

窓(フリー写真)

死んだ街

映像製作の専門学校がありまして、私はそこで講師助手のような仕事をしています。 1年生の授業で、 『カメラを渡され、講師が決めたテーマに沿った映像を、次の授業の日までに撮って…

カメラのレンズ

見守るふたり

ある写真店のご主人から伺った、忘れがたい話があります。 写真を現像する仕事をしていると、ごく稀に説明のつかないものが写り込むことがあるそうです。そうした場合は、お客様に不安を与…

名も知らぬ息子

「僕のお母さんですか?」 登校中信号待ちでボーっとしていると、突然隣の男が言った。 当時私は20歳の大学生で、妊娠・出産経験はない。それに相手は、明らかに30歳を超えていた…

地厄(じんやく)

今から25年前の小学3年生だった頃の話。 C村っていう所に住んでたんだけど、Tちゃんっていう同い年の女の子が引っ越してきたんだ。 凄く明るくて元気一杯な女の子だったんで、こ…

谷川岳(フリー写真)

谷川岳の救難無線

大学のワンゲル時代の話。 部室で無線機をチェック中に、 「どうしても『SOS』としか聞こえない電波がFMに入るんだけど、どう?」 と部員が聞いて来た。 その場に…

家(フリー写真)

バイバイ

4月の統一地方選挙で、某候補者のウグイス嬢をしました。 その時、私はマイク担当ではなく、手振りに専念していました。 手振りは、候補者を支持してくださる方が振っている手を漏ら…

駅のホーム

もうひとりの私がいた日

この出来事は、私がまだ小学校に入学する前のことです。 その日、母に連れられて、遠縁の親戚の家を訪ねるために駅へと向かっていました。私にとっては、電車に乗るのも駅に行くのも、すべ…

団地(フリー写真)

深夜の足音

昔、俺が社会人一年目の頃に体験した話。 当時は五階建ての団地に一人暮らしをしていた。 周りはとても静かで、俺はその場所をとても気に入っていた。 しかし一つ問題があった…