裏返し

公開日: 怖い話

時計(フリー素材)

最初にお願いと注意を。

この文章を読む前に、身近な所に時計があるかどうか確認して欲しい。十分、二十分が命取りになりかねないので。

では……。

先月、高校時代の友人が病でポックリ逝ってしまった。

通夜の席で十数年ぶりに集まった同級生の、誰からともなく

「その内、皆んなで呑もうなんて言っている間に、もう三人も死んじまった。本気で来月あたり集まって呑もうよ」

という話になった。

言い出しっぺの曽根という男が幹事になって話は進行中だが、なかなか全員のスケジュール調整がつかない(男5人、女3人)。

今年の夏はとても暑いので9月に入ってからにしようかと、幹事の曽根と今昼飯を一緒に食べながら話し合った。

その時、ビールなんて呑んだのが間違いだった。

曽根がふと言わなくても良いことをつい口に出し、俺は酔った勢いでそれに突っ込んだ。

それは先月死んだ友人に先立つこと十年、学生時代に死んだ岸と椎名というカップルのことだった。

十年前、曽根は岸の一人暮らしのアパートで、椎名と三人で酒を呑んだ。

直後、岸と椎名は交通事故で死亡。

岸の酔っ払い運転による事故という惨事だった。

曽根はその事故の第一発見者でもある。

俺は某巨大掲示板のことを曽根に説明し、事故の第一発見者のスレッドに書き込めと悪趣味な提案をしたのだ。

すると曽根は忽ちにして顔面蒼白となり「冗談じゃない!」と本気で怒り出した。

俺は些か鼻白み「ムキになんなよ」と言い返したが、曽根の怒りは収まらず。

「じゃあ、あの時の話を聞かせてやるが、後悔するなよ」

と言って、恐ろしいくらい早口で話し始めたのだ。

曽根の話

俺が岸と椎名と呑んでいた時、弓削先輩がいきなり岸のアパートを訪ねて来た。

顔面蒼白で、突然「おまえ等、裏返しの話を知ってるか」と話し出した。

その時、俺は酒を買い足しに行こうとしたところだった。

弓削さんが止める様子も無いので缶酎ハイを買いに出て、15分ばかり中座した。

部屋に戻ると弓削さんは大分くつろいだ様子で、俺が買って来た酎ハイを喉を鳴らして一気に呑んだ。

「何の話だったんですか?」

「だから、裏返しだよ」

「裏返し?」

「裏返しになって死んだ死体、見たことあるか?」

「……いいえ。何ですか、それ?」

「靴下みたいに、一瞬にして裏返しになって死ぬんだよ」

「まさか。何でそんなことになるんですか?」

先輩は、くっくと喉を鳴らして笑った。

「この話を聞いてから2時間以内に他の人間にこの話をしないと、そういう目に遭うんだ」

「不幸の手紙ですか?」

俺は本気にした訳ではないが、そう聞き返した。

今なら「『リング』ですか?」と言うところか。

「何とでも言え。とにかく、俺はもう大丈夫だ。もさもさしてないで、おまえ等も話しに行った方がいいぞ」

何か白けた感じになったが、買い足して来た分の酎ハイを呑み干して宴会はお開きになった。

先輩はバイクで去り、岸と椎名は岸のサニーに乗った。

スタートした直後、サニーは電柱に衝突した。

呑み過ぎたのかと思いすぐに駆け寄ってみると、岸椎と名は血まみれになっていた。

そんな大事故には見えなかったので、俺は少なからず驚いた。

いや、もっと驚いたのは、二人が真っ裸だったということだ。

二人は、完全に裏返しになっていたのだ。俺は大声で叫んだ。

「裏返しだ!裏返しで死んでる!」

すぐに人が集まって来て現場を覗き込み、俺と同じ言葉を繰り返した。

だからその場に居た全員が助かったのだろう。

話を終えると、曽根は逃げるように帰って行った。

俺はこんな話は無論信じないが、一応このスレッドを立てて予防しておく。

読んだ方は一応、後何時間あるか時計でご確認を……。

関連記事

光の誓い

近所の「霊感おばさん」から夏祭りの時に聞いた話。 霊感おばさんの相談者の女性が、幼稚園時代に体験した話だそうです。 ※ 私は幼稚園の頃に「光の誓い」という曲を歌った事を覚えて…

赤いミニスカートの女

サイフの持ち主は

これは今から7年ほど前、私が一人暮らしを始めたばかりの頃の話です。 高校を卒業し、就職と同時に実家を出て、徒歩30分ほど離れた土地で初めての一人暮らしを始めました。まったく知ら…

蝋燭

キャッシャ

俺の実家の小さな村では、女が死んだ時、お葬式の晩に村の男を10人集め、酒盛りをしながらろうそくや線香を絶やさず燃やし続けるという風習がある。 ろうそくには決まった形があり、仏像を…

初めて見た霊

俺が中学の時の話。 麻雀を覚えたての頃で、仲の良い友達3人(A・B・C)と学校が終わってはAの家に集まり麻雀をやっていた。 Aの部屋は離れにあり、親などに特にうるさくされず…

村はずれの小屋

じっちゃま(J)に聞いた話。 昔Jが住んでいた村に、頭のおかしな婆さん(仮名・梅)が居た。 一緒に住んでいた息子夫婦は、新築した家に引っ越したのだが、梅は「生まれ故郷を離れ…

鯉の池

けもの

俺のじいちゃん家は結構な田舎にあり、子供の頃はよく遊びに行っていた。 じいちゃんは地元の名士とでも言うのかな、土地を無駄に一杯持っていて、それの運用だけで結構稼いでいたらしい。 …

山道

見つけた

小学校の先生Aからの話で、これは高校の部活の合宿中に起こった出来事だ。 約20人が一つの大きな部屋で布団を敷いて寝ていた。練習の疲れから、みんな夜10時には眠ってしまった。しか…

山

山の隠された顔

山は恐ろしい場所だ。恐怖の源は多岐にわたる。幽霊の噂、野生動物の脅威、予測不能な天候…だが、最も恐ろしいのは人間そのものである。 山へ行くと多くの人が開放感を感じるだろう。爽快…

六甲山ハイウェイの死神

私には「霊感」という物が全く無く、またそういった類の物も信じてはおりませんでした。 「見える」という友人から霊の話を聞いていても、自分に見えないと存在が解らないし、また友人が私を…

マッチの灯り(フリー写真)

墓場の幽霊

うちの近所にお墓がある。そこに一人で住んでいるおばあさんが体験した話。 ※ ある夜、そのおばあさんは布団に入って眠っていたが、人の気配を感じて起きたらしい。 だがそんなことは…