裏返し
公開日: 怖い話
最初にお願いと注意を。
この文章を読む前に、身近な所に時計があるかどうか確認して欲しい。十分、二十分が命取りになりかねないので。
では……。
※
先月、高校時代の友人が病でポックリ逝ってしまった。
通夜の席で十数年ぶりに集まった同級生の、誰からともなく
「その内、皆んなで呑もうなんて言っている間に、もう三人も死んじまった。本気で来月あたり集まって呑もうよ」
という話になった。
※
言い出しっぺの曽根という男が幹事になって話は進行中だが、なかなか全員のスケジュール調整がつかない(男5人、女3人)。
今年の夏はとても暑いので9月に入ってからにしようかと、幹事の曽根と今昼飯を一緒に食べながら話し合った。
その時、ビールなんて呑んだのが間違いだった。
曽根がふと言わなくても良いことをつい口に出し、俺は酔った勢いでそれに突っ込んだ。
それは先月死んだ友人に先立つこと十年、学生時代に死んだ岸と椎名というカップルのことだった。
※
十年前、曽根は岸の一人暮らしのアパートで、椎名と三人で酒を呑んだ。
直後、岸と椎名は交通事故で死亡。
岸の酔っ払い運転による事故という惨事だった。
曽根はその事故の第一発見者でもある。
俺は某巨大掲示板のことを曽根に説明し、事故の第一発見者のスレッドに書き込めと悪趣味な提案をしたのだ。
すると曽根は忽ちにして顔面蒼白となり「冗談じゃない!」と本気で怒り出した。
俺は些か鼻白み「ムキになんなよ」と言い返したが、曽根の怒りは収まらず。
「じゃあ、あの時の話を聞かせてやるが、後悔するなよ」
と言って、恐ろしいくらい早口で話し始めたのだ。
※
曽根の話
俺が岸と椎名と呑んでいた時、弓削先輩がいきなり岸のアパートを訪ねて来た。
顔面蒼白で、突然「おまえ等、裏返しの話を知ってるか」と話し出した。
その時、俺は酒を買い足しに行こうとしたところだった。
弓削さんが止める様子も無いので缶酎ハイを買いに出て、15分ばかり中座した。
※
部屋に戻ると弓削さんは大分くつろいだ様子で、俺が買って来た酎ハイを喉を鳴らして一気に呑んだ。
「何の話だったんですか?」
「だから、裏返しだよ」
「裏返し?」
「裏返しになって死んだ死体、見たことあるか?」
「……いいえ。何ですか、それ?」
「靴下みたいに、一瞬にして裏返しになって死ぬんだよ」
「まさか。何でそんなことになるんですか?」
先輩は、くっくと喉を鳴らして笑った。
「この話を聞いてから2時間以内に他の人間にこの話をしないと、そういう目に遭うんだ」
「不幸の手紙ですか?」
俺は本気にした訳ではないが、そう聞き返した。
今なら「『リング』ですか?」と言うところか。
「何とでも言え。とにかく、俺はもう大丈夫だ。もさもさしてないで、おまえ等も話しに行った方がいいぞ」
何か白けた感じになったが、買い足して来た分の酎ハイを呑み干して宴会はお開きになった。
※
先輩はバイクで去り、岸と椎名は岸のサニーに乗った。
スタートした直後、サニーは電柱に衝突した。
呑み過ぎたのかと思いすぐに駆け寄ってみると、岸椎と名は血まみれになっていた。
そんな大事故には見えなかったので、俺は少なからず驚いた。
いや、もっと驚いたのは、二人が真っ裸だったということだ。
二人は、完全に裏返しになっていたのだ。俺は大声で叫んだ。
「裏返しだ!裏返しで死んでる!」
すぐに人が集まって来て現場を覗き込み、俺と同じ言葉を繰り返した。
だからその場に居た全員が助かったのだろう。
※
話を終えると、曽根は逃げるように帰って行った。
俺はこんな話は無論信じないが、一応このスレッドを立てて予防しておく。
読んだ方は一応、後何時間あるか時計でご確認を……。