開けて
公開日: 怖い話
大学進学のために上京した時の話です。
私は志望した大学に無事受かり、4月から新しい学校生活を送るため、田舎から上京して一人暮らしをする事になりました。
学校まで電車で20分ほどで通える距離に、ワンルーム・ユニットバスの少し古いアパートを借りる事になりました。
古いと言っても汚いイメージはなく、寧ろリフォームしたかのように外観は綺麗でした。それでも築10年以上は経っていたそうです。
引っ越しも終わり新しい部屋に慣れてきた頃、私は入学式までの間、夜遅くまで本を読んだり映画を見たりするのが日課でした。
ある日、夜中に本を読んでいると、うとうとと眠くなってきました。
一体本をどこまで読んだのか、いつ眠ってしまったのか全く覚えていませんでした。
※
暫く経って、私はトイレに行きたくなり目を覚ましました。
ユニットバスの方へ向かう途中、部屋が暗かったので壁にぶつかりながらも、どうにか電気を点けて用を足す事に。
寝起きでボーッとしていたので、暫く便座に座りユニットバスのドアをじっと眺めていました。
今、何時なんだろう…。
「……て…」
え?
「開けて…」
今にも消えてしまいそうなか細い声で、でもはっきりと聞こえました。
確かにドアの向こうから女の人の声がしたのです。
「開け…て」
何?
私は今一体どういう状況なのか、理解出来ずにパニックに陥りそうになりました。
誰!? 何で?
必死に考えました。絶対に有り得ない!こんな状況!
私は今にも泣き出しそうになりながら、あらゆる可能性を考えました。
ふと思い付いた事…。
あ…本を読みながらうたた寝しちゃったのに、電気消えてた…。消した覚えないのに…。
そう思った瞬間。
「開けろ!!」
さっきの女性とは思えない声でしたが、何か必死になっている、そんな声でした。
その瞬間、ガチャガチャとドアノブをこじ開けようとする音がしました。
私は声にならない声で泣き叫びながら、必死にドアノブを押さえました。
開けられたら大変な事になると思ったからです。
本が床に落ちる音で目が覚めました。
良かった…夢だったんだ。
そう思えたのも一瞬でした。
何と部屋の電気は消えていて、代わりにユニットバスのドアの隙間から光が漏れていたのです。
私は怖くて中を確認する事が出来ず、朝になるのを待つ事にしました。
※
後から聞いた話では、昔その部屋に住んでいた女性が揚げ物をしている際に、誤ってフライパンをひっくり返してしまい、全身に油を浴びて火だるまになった事件があったそうです。
彼女は何とかシャワーの水を出そうとしましたが、間に合わなかったとの事でした。
アパートが妙に綺麗だったのは、火事の焼け跡を隠すためだったのです。
もちろん私はその話を聞いた日に親に事情を説明し、別のアパートへ引っ越しました。