同じ長さの髪が詰まる排水口
閉館後のスポーツクラブで夜間清掃を始めた私は、三番のシャワー室の排水口に、いつも同じ長さの髪が溜まっていることに気づいた。毛先は鋏で切ったように揃い、量は毎晩少…
じわじわ来る、あの感覚。大きな叫び声や派手な演出ではなく、日常の中にそっと潜む怖さ——ほんのり怖い話は、読んだ後もしばらく頭に残る静かな恐怖を描いています。「佐々間のおばちゃん」をはじめ、日常に紛れ込む静かな怖さを約400話収録しています。
閉館後のスポーツクラブで夜間清掃を始めた私は、三番のシャワー室の排水口に、いつも同じ長さの髪が溜まっていることに気づいた。毛先は鋏で切ったように揃い、量は毎晩少…
渇水で干上がった川底の測量中、レベルの望遠鏡にだけ、対岸に立つ標尺の人が映った。肉眼では誰もいない。測るたびに縮む川幅、乾いた土に残った濡れた足跡。その人が立て…
病院の売店で、月末の17時40分に台へ出される代わりの湯呑みは、閉店までに熱湯が冷え、翌朝きまって割れていた。入社初日に搬入口で返事をしてしまった私は、店長が去…
駅前の古い写真館で七五三の前撮りの着付けをしていた去年の11月。三階の桐の箱に眠る一枚だけの祝い着の肩上げが、11月に入ると一針ずつほどけていく。六歳の子どもた…
川沿いのマンションで管理員をしている私のタブレットに、毎朝3時14分、住戸のない地下1階から修繕依頼が届く。件名は「開けてください」。地下の点検口は溶接され、1…
去年の10月、飼ってもいない犬の首輪が、鍵をかけた部屋の玄関に置かれていた。前の晩まで、それは車で1時間半離れた祖母の家の納戸にあったはずだ。名前を彫る板には何…
去年の12月、雪の深い小板という町に一人で行きました。宿のおかみは外湯が七つあると言いました。けれど三日目の晩、案内図にない灯りが坂の下に見えたのです。八つ目の…
六月の第三金曜だけ、給食のトレーに献立表にない緑の団子がのります。この土地ではあそび団子と呼ばれ、奥の小部屋で二人だけが作り、職員には一つも配られません。翌日、…
築43年の団地に着任した41歳の管理員が、空き住戸の名札を作り替えたとき、古い紙の裏に赤い鉛筆で書かれた数字を見つけた。名札の裏の数字は住民ごとに違い、数字の大…
山で道を失った話、いないはずの相手と交わした会話、時間や場所そのものがずれた話、そして一度離れたものが戻ってきた話。説明がつかないまま終わった不思議な体験の実話…
宿を出るとき三和土で履物を一度脱ぎ揃え直してから履く——若狭の入り江に残るその作法を忘れた朝から始まった不思議な話です。平成十年の夏、隣家の絹さんを六十年ぶりの…
昭和五十八年、市役所の宿直室で夜間の代表電話を受けていた私に、毎月十三日の同じ時刻だけ、同じ声が橋のたもとの街灯の不具合を告げました。番地を辿ると、そこは区画整…
存在しないはずの京都の路地が、雨の日に一度だけ口を開ける。蔵書目録を編む仕事をしていた私が、平成三年の西陣で見つけた一冊の細見図。その見返しには、どの地図にも載…
平成五年の台風のあと、損害調査員の女性が丹後の在で体験した不思議な話です。十九戸のはずの集落で、三人が三つの違う屋号で同じ一軒を指し、段丘の下の草には二十枚の軒…
六年前の秋、記録的な渇水でダム湖の水位が二十メートル下がり、沈んだ村の旧道と渡し場の三十七段の石段が湖底から現れました。渇いた年を彫り継ぐ石の標柱、欄干に固結び…
昭和七年の六月、上州の蚕の町で白い麻に名を一つ縫った和裁士の怖い話。雨も降らぬ夜に屋根裏で桑を食む音がして、朝ごとに針目が二寸進み、七十七段の石段が帰りは六十九…
昭和五十二年の夏、都会の勤めを辞めて行き場をなくした私は、半島の先の漁村・鵜ノ首の浦で大伯母フミの家にひと月を過ごした。窓のない網蔵に籠るもの、沖の離れ岩から還…
三十年同じ机で書いてきた私の前に、夜ごと増える原稿が現れる。誰も書いていないはずの一枚は、私の筆跡で、まだ来ていない明日の出来事を綴っていた。かつてこの部屋で筆…
昭和の山あいの町の古い映画館で住み込みで働いた二十歳の娘が出会った、不思議な話。閉館後の誰もいない客席から、夜ごと大勢のゲラゲラという笑い声が響く。ある晩そっと…
谷あいの古い温泉宿に伝わる不思議な話。雨の晩にだけ濡れて戻る離れの鍵と、夜の渡り廊下を渡っていく塗り下駄の音。仲居として四十二年勤めた私が最後の秋に見たのは、閉…
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