入れ替わった兄

住宅街(フリー素材)

小学校に上がる前だと思う。

ある朝、目を覚ますと隣で寝ている兄以外、家の中に人の気配が無かった。

家中を見て回るが、誰も居ない。

不安になって兄を起こそうと声を掛け、肩をゆするが目を覚まさない。

どんなに激しく揺り動かしても、ぐにゃり、ぐにゃりとするばかりで死んでいるかのようだ。

私は怖くなって家の外に出た。雨が降っていて薄暗かった。

家の周りを泣きながら歩き回ったが、家の外にも全く人の気配が無かった。

泣きながらまた家に帰りぐずぐずしていると、不意に両親が現れた。

「どこに行ってたの」と聞いても答えてくれず、「お父さんはここにいるよ」「お母さんはここにいるよ」と答えるばかりである。

訳が解らなかったが、とにかく両親が戻って来て私は安心した。

すると、そこに兄が現れた。兄の顔を見た私は息を呑んだ。

そこに居た兄は兄ではなかった。背格好は似ている。しかし昨日までの兄、さっきまで隣で寝ていた兄と顔が全然違う。

目付きがきつい。鼻が細く高い。頬が痩けている。髪がぺたんとしている。

あの不思議な朝のような出来事はあれが最初で最後だったが、兄はそれからもずっと別人のままだ。

関連記事

夜の海

夏の夜の謎

海岸線に位置する親族の家で過ごした夏の夜の出来事です。 夏の季節にもかかわらず、家の子どもが喘息を持っていたため、蚊取り線香は避け、私のために蚊帳が用意されました。 深夜…

プラント・コロニー(長編)

いつものようにバイトをして、休憩室で飯を食ってたんだわ。 飯を食い終わってスマホを弄ってたら、頭がくらっとしてきた。 貧血かなーと思ってたんだけど、妙に意識だけはっきりして…

見覚えのある手

10年前の話だが、俺が尊敬している先輩の話をしようと思う。 当時、クライミングを始めて夢中になっていた俺に、先輩が最初に教えてくれた言葉だ。 「ペアで登頂中にひとりが転落し…

玄関(フリー写真)

ただいま

俺が高校生だったある深夜、母が部屋に来て起こされた。 祖母が亡くなったということだった。 俺の実家は新潟県で、祖母は二年程前までは一緒に過ごしていたが、容態が悪くなってか…

紅葉(フリー素材)

幻の宴

旅行先で急に予定が変更になり、日本海沿いのとある歴史の古い町に一泊することになった。その時に体験した話。 ※ 日が暮れてから最初に目に入った旅館に入ったんだけど、シーズンオフのせい…

命の大切さ

つい最近の出来事です。 職場で色々あって、自殺未遂しちゃったのね。 それで気分転換のため田舎に帰省したんだ。もちろん自殺未遂のことは秘密にして。 すると、信心深いばあ…

厨房(フリーイラスト)

後天性の霊感

大学時代に横浜の◯内駅前のファミレスで、夜勤調理のバイトをしていました。 一緒に働いているバイトに二名、いわゆる見える人が居ました。 その二人(AとBにします)曰く、そのフ…

廃屋の窓(フリー写真)

半分の家

じいちゃんから聞いた話。 従軍中、幾つか怪談を聞いたそうだ。その中の一つの話で、真偽は不明。 ※ 大陸でのこと。 ある部隊が野営することになった。 宿営地から少し…

吉祥寺駅(フリー写真)

赤い世界

僕が小学6年生の時の話。 当時、僕は吉祥寺にある塾に通っていました。 隣の○○区からバスで通うのですが、その日もいつも通り塾へ行くため、僕はバスに乗りました。 ※ バス…

綺麗な少女

夏が近くなると思い出すことがある。 中学生の時、ある夏の日のことだ。俺は不思議な体験をした。 夏休みを迎えて、同世代の多くは友達と遊んだり宿題をやったりしていただろう。 …