死者の集合体(神父の子2)
公開日: 神父の子シリーズ
ある日のこと。
親父が早朝から神様に祈っていた。これは決まって昨日の夜に怖いことがあった時のお決まりのパターン。
幽霊が見える人は「慣れる」とか「普通に見える」と言うが、親父はその気持ちはよく解らないと言っていた。
気分は悪くなるし、突然出て来るとやはり怖いと言っていた(親父は怖がりだったのかもしれない)。
親父の早朝のお祈りも3日目に突入すると、母も俺も流石に心配になってくる。
恐らく親父は一睡もできていないと思うし、俺たちにも聞こえるほどの強烈なラップ音が鳴り響く。
※
その日は土曜で休みだったので、親父に「どんな霊が来ているのか?」と聞いてみた。
俺にできることなど何一つ無いが、何とか親父を楽にしてあげたいという気持ちだけはあった。
その瞬間、握り返した手に温度を感じない…と思った瞬間、30メートルくらい引っ張られた感覚に襲われた。
『騙された』という何ともいえない感情が頭の中を回った。正直、死んだと思った。
その時、親父が吼えた。吠えたとも言える。人の怒号ではなかった。獣のような謎の怒号だった。
俺は布団の中で片手を上げた状態で金縛りになっていた。
母が頭まで被っていた俺の布団をはいだ瞬間、天井に感覚的に女だと思われる畳二枚分ほどの巨大な顔があった。
怒りと憎悪に塗れた嫌な感覚の塊だったと今でも思い出す。
※
夜が明け、親父に昨日のは何だったのか聞いてみた。
「最近死んだ女を中心に百を越えるものが集まるとああなるのだと思う」
と言っていた。
「今は目的があるが、そのうち溶け込んでただの悪意の塊になってしまう。ああなると神の傍には行けないな」
とぶつぶつ説明してくれた。
俺としては今夜のことが心配だったのだが、親父は
「昨日が最後だから心配ない」
と言っていた。
根拠は教えてはくれなかった。
※
次の日、親父は夜まで寝ていた。
夕御飯の時に、外国人の女性が死体で見つかったというニュースがやっていた。
その時、やっと起きて来た親父が
「これだったのかな?」
と呟いた。
『それで教会に来た訳?』と思ったが、もううんざりだったので口には出さなかった。