天国からの放送

公開日: 意味がわかると怖い話

img_blankct_1

そのカセットテープは、ある日、突然郵便や宅配便で送られて来るそうだ。

もちろん、差出人の名前なんかない。

テープ自体はどこででも手に入る安物なのだが、小さなカードが同封されている。内容は大体次の通りだ。

「これは、天国からの放送を録音したテープです。空中にはたくさんの放送電波が飛び回っていて、その中には天国からの放送も混ざっていますが、ふつうの状態では受信できません。

私たちはその、天国からの放送を録音することに成功しました。繰り返し聞いてください。必ず天国からの声が聞こえます」

昔に流行った不幸の手紙もどきかと思い、大抵の人は馬鹿馬鹿しく思ってこのテープを捨ててしまう。

そうでない人も部屋の片隅に投げ出し、ホコリまみれにしてそのまま忘れてしまう。

好奇心に負けて、あるいは趣味の良くないジョークのつもりで、実際にこのテープを聴く人は、ほんの僅かだ。

テープには、最初何も入ってはいない。

それでも我慢して聞いていると、そのうち微かに雑音が響いてくる。

そうして段々その雑音が大きくなってくる。

「ザーッ」とか「ブーン」とか「キーン」といった、ただのノイズだ。

聴力検査の時に聞こえてくるあれだと思えばいい。そのノイズは延々と続く。…何十分も。

いくら我慢強い人間でも、このあたりで停止ボタンを押すことになる。

「なーんだ、やっぱりハッタリか」

「クズテープじゃない、こんなの」

というのが、大方の感想だろう。

もっともだ。

今度こそゴミ箱に放り込む人もいるだろう。

ところがである。

ここからが本筋なのだが、このテープを一度聞いた人間は、また聞きたくなるらしいのだ。

何の内容も、価値もない、ノイズしか入っていないクズテープをだ。どうしてそんなガラクタに惹かれるのか、実のところ本人にも解らない。

『もう一度アレを聴いてみるか…』

そんな考えが頭の中でどうしようもなく膨らんで、再び手を伸ばすのである。

もちろん、この時点でテープが手元に残っていればの話だ。そうすると奇妙なことに、最初ほどノイズが気にならなくなる。

それどころかノイズがなんとなくある種のリズムを含んでいて、聞いていると気持ちが良いような気さえしてくる。

その上なんだかノイズの間に色々な音が混ざっているように思えてくるのである。

それは、正体の判らない動物がうなるようなものだったりする。男女の会話が途切れ途切れ聞こえてくる気もするが、はっきりしない。

「もう、間に合わないよ」とか「だめだよ」とか言っているようだが、何が間に合わなくて、何がだめなのか、さっぱり解らない。

やがてそれは、遠くで怒鳴っている声や、けたたましい笑い声、金切り声としか言い様のない絶叫、

「イヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒ…」

といった嫌らしい含み笑いなどを何の脈絡もなく交えると、唐突に途切れてしまう。あとはまたノイズだ。

大部分の人は気味が悪くなって、テープを今度こそ手放してしまう。残ったほんの少しの人だけが、まるで取り憑かれたようにテープを聞き続けることになる。

もう、友達にも家族にも相談せず…何度も、何度もだ。テープのノイズは、聴けば聴くほど心地良くなっていく。

その代わり、ノイズの間の声は次第にはっきりしてくるという。そんなある日、声は唐突に聞き手に向かって言うのだ。

はっきりと。そうして、ウンともスンとも言わなくなるのだ。ノイズだらけの、ただのクズテープに戻ってしまうのだ。

一体、何を言うのだろう?

聞くところによると、それは八桁の秒数であるらしい。それが何を意味しているかは、自由に解釈してもらうしかないのだが。

いずれにしてもそれは、いくら長くても八桁以上になることはなくて、とにかくよく “当たる” そうである。

…八桁の秒数がいかに短い時間であるかは、これを日数に換算すれば一目瞭然だろう。

あくまでも聞いた話ではあるが。

関連記事

逃げなきゃ

深夜、2階の自室で眠っていた私は、階下の妙な物音に気付いてふと目が覚めた。 「玄関から誰か入って来た…?」 そう思った瞬間、バクバクと鼓動が早まった。 夕方見たニュー…

姉のアトリエ

10年程前の話。 美術教師をしていた姉が、アトリエ用に2DKのボロアパートを借りた。 その部屋で暮らす訳でもなく、ただ絵を描く為だけに借りたアパート。 それだけで住ま…

母の弁当

中学校に入ってから1人の不良にずっと虐められてた。 自分の持ち物に『死ね』と書かれたり殴られたりもしていて、俺はちょっと鬱になってたと思う。 心配する母にガキだった俺はきつ…

2タッチ入力

私の父が施設にいたころ、父が散歩にでも出てそのまま連絡が取れなくなっても困るので、携帯電話をもたせていた。 父はボケており、携帯を買い与えアドレスを交換したころは「これでいつでもお前と連…

消える死体

ある日、しゃくに障る泣き声なので妹を殺した。 その死体は井戸に捨てた。 次の日、井戸を見に行くと死体は消えていたのだった。 5年後、些細なけんかで友達を殺した。 その死…

深夜の高速道路

遺留の少年

警官をしている私の親友が、数年前に遭遇した不可思議な出来事を、私に打ち明けてきた。 彼は、東京都内の高速道路交通警察隊の一員として働いており、ある日突如、他の課の課長から緊急の…

ドアノブ(フリー写真)

テンキー

学生時代に住んでいたアパートの鍵はテンキーだったのだが、夜中の3時頃に部屋で漫画を読んでいたら、突然ドアノブをガチャガチャする音が聞こえた。 ビビったけど鍵を掛けているし大丈夫だ…

お化け屋敷(フリーイラスト)

お化け屋敷

夏休みに彼と遊園地へ行き、お化け屋敷に入った。 私はとにかく怖がりで、中が真っ暗なだけでもう恐くて震えていた。 終始、彼の腕を肘ごと抱え込み、目も瞑って俯きながら歩いた。 …

女性専用トイレ(フリー素材)

横に並んだ目

先日、地元の駅のトイレで覗きに遭ってしまいました…。 綺麗なトイレではないので普段は行きたくないのですが、その時は我慢出来ずに駆け込みました。 ※ 用を足し終えて立ち上がると…

タクシー(フリー素材)

タクシーと幽霊

昨日、夜遅くにクレームがあり会社に呼ばれた。 バスも電車も無いので、会社に向かうため家まで迎えのタクシーを呼んだんだけど、その時の運転手さんとの会話。 ※ 運転手「昨日、近所…