変な長靴
公開日: 怖い話 | 死ぬ程洒落にならない怖い話
俺は大学生時代、田舎寄りの場所にアパートを借りて一人暮らしをしていた。
大学が地方で、更に学校自体が山の中にあるような所だから交通の便は悪くて、毎日自転車で20分くらいかけて山を登っていた。
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ある夏の日、夜まで研究室で実験をしなくちゃいけないことになってしまった。
夜中でも室内はジメジメ蒸し暑くて泊まるのは嫌だったから、なんとか終わらせて施錠をし、さっさと帰ることにした。
一人で山の坂道を通ることは何回かあったし、綺麗に舗装されているから、たまに通過する車のおかげでそんなに怖くなかった。
それから山の真ん中ら辺の少し開けた場所まで下った。ここは公衆トイレや自販機が置いてある簡素な公園があって、柵を越えたらすぐ森に繋がるようなほぼ自然という場所。
その公園をさっさと通過しようとしたんだが、ふと公園の中に見慣れないものが見えた。
自販機の光にほんの少し照らされていたけど全貌は見えず、でも足元の長靴みたいなのが遠目でも確認できた。
少しだけ見ていたけど異常者だったら怖いし、オカルティックな物にはあまり関わったら悲惨なことになりそうだと思って、急いでアパートに帰って寝た。
そのことは研究室の先生方や後輩に話てみたけど何も情報は無し。早朝、研究室の鍵を借りる時に仲良くなった守衛さんに聞いても収穫ゼロ。
見間違えかただの変な人ということになって、一応注意する程度で心に留めておいた。
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それから秋頃にまた夜中まで実験が延びてしまって、一人で帰ることになってしまった。が、例の公園前を通過したけど今回は特に何事もなくそのまま帰宅……。
と思っていたらやっぱり変な長靴がいた。
多分少し場所が変わっていたけど、今回も自販機に照らされていた長靴が見えた。
俺はその時、謎の冷静さで長靴をじっと見て様子を伺っていた。
『もし近寄って来ても自転車走らせたら余裕だろ……』と、今思えばかなり楽観的だった。
それからぼうっと長靴を見ていたら、「ザリ…ザリ…」と音がしていたことに気が付いた。
『何だこれ』と思っていたら、長靴が地面をスライドしながら少しずつ近寄って来ていた音だった。
そして、スライドしながら近寄って来たことで、自販機の光が長靴の少し上あたりを照らした。
もさっとしたズボンで、胴から頭らへんは影で輪郭しか判らなかったけどかなりの長身デブ体型に尻みたいな頭で、顔や腕は暗くて確認出来なかった。
もう有り得ないくらいびっくりして、蒸し暑かったけど全身鳥肌が立ち、体の芯が凍りついたまま自転車を全速力で漕ぎアパートに逃げ帰って、電気を全部点けて一夜を過ごした。
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後日、研究室であったことを全部話したら体調や精神を心配され、先生方や後輩が実験を多少手伝ってくれただけで終わった……。
それから大学卒業するまでは夜中まで実験したら学校に寝泊りすることにして、卒業まで長靴の変なのを避けるようにした。
結局、今は何かしらの悪影響や不運もなく過ごしているけど、最近あれの正体が気になって仕方が無い。
胴から上は輪郭だけなら、デジモンに出てくるヘドロモンみたいな感じに近いと思うけど、調べても何も判らなかった。