もし返事をしていなかったら…

公開日: 洒落にならない怖い話

黄色いパーカー

ある日、私は商店街の裏にある友人のアパートへ遊びに行った。

そのアパートは古びた二階建てで、一階には共同のトイレがあり、友人の部屋はその一番奥にあった。

夜が更けるにつれて酒も進み、気づけば朝方になっていた。酔いのせいか急にトイレに行きたくなり、薄暗くじめじめした共同トイレへ向かった。

そこで用を足していると、不意に視界の隅に動く影が映った。

振り返ると、黄色いパーカーを着た青年が立っていた。落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見回し、次の瞬間、私に向かって大きな声で叫んだ。

「オハヨウゴザイマス!!」

あまりに唐突で、思わず反射的に返してしまった。

「おはようございます……」

奇妙なやりとりだったが、私は特に気にすることもなく、友人の部屋に戻りそのまま眠りについた。

しばらくして、不意に友人の声で目を覚ました。

「おい!これ見ろ!いいから見ろ!」

テレビの前で興奮した様子の友人が、ニュース番組を指さしていた。

画面には、見慣れたこの近所の風景が映し出されている。大きく表示されたテロップには、

――“白昼堂々!通り魔”

という文字。

アナウンサーの説明によれば、通り魔はすでに逮捕され、犯行の直前に黄色いパーカーを着ていたという。

目撃者のおばあさんの証言も同じだった。

さらに、報道された動機を聞いて私は全身が凍りついた。

「挨拶をしたのに、返してもらえなかったから刺した」

画面に映るのは、あの青年だった。

もしあの時、私が返事をしなかったら……。

考えただけで、背筋に冷たいものが走った。

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