住人の目

アパート(フリー写真)

一昨年まで住んでいたアパートの話。

引っ越しをしようと決め、物件探しをしている時、

「ちょっとした縁で安く出来るから」

と、そのアパートを不動産会社から紹介された。

部屋は1K、ロフト付き。日当たりも良し。

大き目の収納もあり、交通の便も良く、殆ど文句の無い物件。速攻でそこに決めた。

当時は猫を一匹飼っていたのだが、その許可を貰うのを忘れてしまい、

『ま、後で上手く誤魔化せばいいか~』

というぐらいの軽い気持ちで、猫も連れて来た。

アパートの住人たちへの挨拶も済ませ、近所のスーパーなどを見て回り、引っ越し当日は終了。

荷物も整理していない部屋で寝ようとした時、猫の異変に気が付いた。

玄関のドアの方を見て微動だにせず、ずっと低い声で唸っていた。普段はそんなことしないのに。

その時は『野良猫でもいるのかな?』としか思わなかったので、そのうち慣れるだろうと思い、早々に寝てしまった。

しかし次の日もその次の日も、毎日毎日、夕方頃になるとその行動を取るようになり、これはおかしいぞと思い、唸り続けている猫の近くに行った。

すると、何か玄関の外で人の気配がする。

お化けとかそういう雰囲気ではなく、明らかに人間の気配。

思い切ってドアを開けたかったが、怖くて出来ない。と言うか、そんな根性も無いし(泣)。

結局、物音を立てないように猫を抱えて部屋に戻り、襖を閉めて寝ることしか出来なかった。

それでも猫は、襖越しに玄関の方を見て唸っていたけど。

そんな毎日が続いたため満足に寝ることが出来ず、3ヶ月で部屋を引き払うことにした。

体重も10キロ落ち、医者にも

「相当ストレス溜まってるね」

と言われたので、元のアパートに出戻りする形になった。

それで、またアパートの住人に挨拶して回ることにしたのだが、こちらが

「短い間でしたがお世話になりました」

と挨拶すると、全員が決まって猫の話をするんだ。

「このアパート、猫とか禁止でしょ? 何で飼ってるの?」

「大家さんの許可を貰わないとダメだよ」

「大家さん、猫のことで怒ってるわよ」

一度も部屋から出していないのに。去勢したから大声で鳴いたことも一度も無かったのに。

不思議に思い、最後の一人にさり気なく聞いてみた。

「何で猫を飼ってたの知ってるんですか?」

そしたら、

「アパートのみんなで交代で見張ってたから」

と言われた。

どうやら毎日交代で(何と大家の指示らしかった)、俺が帰るとすぐにその日の当番が、ドアの前でずっと見張りをしていたそうだ。

ドアポストからの監視もしていたらしく、それで猫を見つけられたみたいだった。

猫を飼う許可を貰わない俺も確かに悪かったが、それならそうと一言言ってくれれば良いのにと反論したら、

「大家さんの指示だから…」

と言う。

その後の話を聞いてみたら、郵便物まで大家さんの指示でチェックされていたらしい。

流石に封筒を破ってまで確認しなかったらしいが、誰から来た郵便というのは逐一チェックしていたそうだ。

それを聞いて、もう一日とここに居たくないと思い、一週間後だった引っ越し予定日を無理やり繰り上げ、翌日引っ越しをした。

今ではもう笑い話でしかないが、当時は本当に洒落にならないくらい怖かった話。

何で大家さんがチェックしていたのか、不動産屋がどういう縁で安く出来たのかは、判らず仕舞いです。

と言うか、怖くて調べたくもなかった……。

今では何事も無く、ストーキングされることも無く、平穏無事な毎日。

やはり値段に見合わないお得なアパートは危険ですね。

関連記事

首長リーマン

終電の一つ前の電車に乗っていた時の事。 電車内には俺と、酒を飲んでいる汚いおっさんが一人。 電車の中で酒飲むなよと思ったけど、臭いも届かないし、まあ良いかという感じで携帯を…

ホテル(フリー素材)

記憶の中の友人

結婚式の衣装合わせで、某有名ホテルに行った時の事。 ロビーで偶然、中学時代の同級生に会った。 昔は凄く痩せていて病弱で、暗い女の子という印象だったが、今ではふっくらと普通の…

砂風呂

昔ね、友達と海に行った時の話なんだけど。 砂風呂をやろうとして、あんまり人目が多い場所だとちょっと恥ずかしいから、あんまり人気のない場所で友達に砂かけて埋めてもらったんだ。 …

犯罪者に縁のある私

今から書く事はすべて実話なんですが、心霊話ではありません。 私が9歳の時、父の仕事(自営)の取引先の人が初めて私の家に来た時、私が案内のために迎えに行きました。 その人は優…

ゲーム機

閉店間際のゲーム店にて

約10年前、私はあるゲーム店でアルバイトをしていました。 閉店時間が迫るある日、60歳前後と見える一人の女性が、突如大きなダンボール箱を抱えて店内に駆け込んできました。 …

御業(ゴギョウ)様

俺がまだ小学生だった頃、母方のじっちゃんの田舎で体験した洒落にならない話。 口止めされていたけど、もう爺ちゃんが他界して十年くらいになるから話す。関わりたくない人は、読まない方が…

数字

余命推定システム

死ぬ程怖くはないけど、じんわりと背筋が固まるような話を。 ただ、俺はこの話を最恐に怖い話だと思っている。 さっきテレビで関係する話が出ていて思い出した。 ※ 数年前の事…

とある物件

今から8年くらい前のITバブルと呼ばれていた頃の話です。私が学校を卒業し、新卒でとある自称IT関係という会社Aに就職いたしました。 当時私は就職活動を適当にしていたため、3月くら…

骨折り

私が中学二年生の時に祖父が死に、その葬儀に行く事になった。 当時、北海道に住んでいた私にとって 本州に住んでいる父方の祖父とは会う機会も少なかった。 また祖父の性格も寡黙で…

祖父の箱

旅先で聞いた話。 伐り倒した木を埋めておくと、稀に芯まで真っ黒になることがある。 そんな埋木を使って特殊な方法で箱を作ると、中に女子が育つそうだ。 ただし、箱を開ける…