真夜中の見知らぬ駅

夜の駅前

あれは、私が大学生の頃の不思議な体験です。

その日、私は大学の友人たちと飲み会に行き、終電ギリギリまで楽しく過ごしていました。

仲間たちは徒歩や自転車通学ばかりで、電車通学をしていたのは私だけ。

終電間際、駅に着くと、ちょうど急行電車が発車するところでした。

私は急いでホームを駆け上がり、その急行電車に飛び乗りました。

「急行だから寝過ごしたらまずいな…。」

そんなことを考えながらも、酔いもあって私はいつの間にかウトウトしていました。

そして一瞬、ガクッと意識が飛んだのです。

次に気がついた時には電車はホームに停車し、発車のベルが鳴り響いていました。

「しまった!降りなければ!」

私は慌てて電車を降りましたが、降り立ったそこは、見知らぬ薄暗い駅でした。

扉が閉まり、電車はあっという間に去って行きます。

実はここまでは、たまに経験する恥ずかしい失敗でした。

とりあえず後続の普通電車を待とうとホームで周囲を見渡すと、駅の周辺は真っ暗闇。

そもそも、この駅は急行が停まるような駅ではありませんでした。

普段から通学以外で利用することのない路線だったので、

「こんな駅でも、時には急行が停車することがあるんだな…。」

と、ぼんやりと不思議に思いながら、次の電車を待つことにしました。

しばらくして普通電車がやってきたので、今度は眠らないようにと意識をしっかり保ちながら乗車しました。

すると、さっき降りてしまった駅は、実際には私が本来降りるはずだった駅の、一つ前の駅だったことに気がつきました。

いつもはここで別の路線に乗り換えるのですが、既に終電の時刻を過ぎているため、当然乗り換えはできません。

仕方なくタクシーを拾おうと改札に向かいました。

改札に到着すると、駅員さんが私の姿を見て驚いたような表情で、

「こんな時間まで、どこにいたんですか?」

と尋ねてきました。

突然の質問に戸惑いながら、「ああ、すみません…」と定期券を見せて改札を通り過ぎました。

そして、駅前のロータリーに出た時です。

目の前の時計が指していたのは、午前1時半過ぎという時刻でした。

「えっ…?」

思わず私は声に出していました。

最初に乗った急行は日付が変わる前に発車し、乗換駅まではわずか15分ほどの距離です。

そして、あの見知らぬ駅に降りてから次の電車が来るまでも、ほんの5分ほどの感覚でした。

電車を降りてからも、すぐに改札に向かったので、そんなに長い時間が過ぎているはずがありません。

いつの間に、こんなに時間が経ってしまったのか…。

私はひどく混乱し、気味が悪くなって、慌てて駅前に停まっていたタクシーで家へと帰りました。

数日後、昼間の時間帯に再びあの不思議な駅の辺りを通りました。

はっきりと駅名を覚えていなかったのですが、駅前には24時間営業のコンビニが明るく建っていました。

そういえば、あの夜、この駅前にはコンビニどころか、灯り一つなかったのです。

急行電車がその駅に停車した記憶も、一度もありませんでした。

あの日、私が降り立ったのは、いったいどこの駅だったのか…。

あの夜の不思議な体験を、私は今でも説明することができません。

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