真夜中の見知らぬ駅

あれは、私が大学生の頃の不思議な体験です。
その日、私は大学の友人たちと飲み会に行き、終電ギリギリまで楽しく過ごしていました。
仲間たちは徒歩や自転車通学ばかりで、電車通学をしていたのは私だけ。
終電間際、駅に着くと、ちょうど急行電車が発車するところでした。
私は急いでホームを駆け上がり、その急行電車に飛び乗りました。
※
「急行だから寝過ごしたらまずいな…。」
そんなことを考えながらも、酔いもあって私はいつの間にかウトウトしていました。
そして一瞬、ガクッと意識が飛んだのです。
次に気がついた時には電車はホームに停車し、発車のベルが鳴り響いていました。
「しまった!降りなければ!」
私は慌てて電車を降りましたが、降り立ったそこは、見知らぬ薄暗い駅でした。
扉が閉まり、電車はあっという間に去って行きます。
※
実はここまでは、たまに経験する恥ずかしい失敗でした。
とりあえず後続の普通電車を待とうとホームで周囲を見渡すと、駅の周辺は真っ暗闇。
そもそも、この駅は急行が停まるような駅ではありませんでした。
普段から通学以外で利用することのない路線だったので、
「こんな駅でも、時には急行が停車することがあるんだな…。」
と、ぼんやりと不思議に思いながら、次の電車を待つことにしました。
※
しばらくして普通電車がやってきたので、今度は眠らないようにと意識をしっかり保ちながら乗車しました。
すると、さっき降りてしまった駅は、実際には私が本来降りるはずだった駅の、一つ前の駅だったことに気がつきました。
いつもはここで別の路線に乗り換えるのですが、既に終電の時刻を過ぎているため、当然乗り換えはできません。
仕方なくタクシーを拾おうと改札に向かいました。
※
改札に到着すると、駅員さんが私の姿を見て驚いたような表情で、
「こんな時間まで、どこにいたんですか?」
と尋ねてきました。
突然の質問に戸惑いながら、「ああ、すみません…」と定期券を見せて改札を通り過ぎました。
そして、駅前のロータリーに出た時です。
目の前の時計が指していたのは、午前1時半過ぎという時刻でした。
「えっ…?」
思わず私は声に出していました。
最初に乗った急行は日付が変わる前に発車し、乗換駅まではわずか15分ほどの距離です。
そして、あの見知らぬ駅に降りてから次の電車が来るまでも、ほんの5分ほどの感覚でした。
電車を降りてからも、すぐに改札に向かったので、そんなに長い時間が過ぎているはずがありません。
いつの間に、こんなに時間が経ってしまったのか…。
私はひどく混乱し、気味が悪くなって、慌てて駅前に停まっていたタクシーで家へと帰りました。
※
数日後、昼間の時間帯に再びあの不思議な駅の辺りを通りました。
はっきりと駅名を覚えていなかったのですが、駅前には24時間営業のコンビニが明るく建っていました。
そういえば、あの夜、この駅前にはコンビニどころか、灯り一つなかったのです。
急行電車がその駅に停車した記憶も、一度もありませんでした。
あの日、私が降り立ったのは、いったいどこの駅だったのか…。
あの夜の不思議な体験を、私は今でも説明することができません。