消えた時間と赤い蝶

林

小学2年生の頃、私と仲の良かったタケシと一緒に、学校の裏山へ虫採りに行った。その山は私たちの遊び場で、中規模の雑木林のような場所でした。私たちはその地形を隅から隅まで知り尽くしていました。

ある日、突然タケシが「赤い蝶がいた!」と叫び、走り出しました。私もすぐに彼の後を追いました。息が切れた頃、タケシは立ち止まり、「逃げられた。凄く大きな蝶だったぜ!」と言いました。私たちはその赤い蝶を探し続けましたが、とうとう見つけることはできませんでした。

日が暮れ始めたので、帰ることにしました。私たちは「夕日に向かって歩く」という掟を知っていました。この掟に従えば、迷っても必ず道路に出ることができました。しかし、その日私たちにはそんな掟は不要だと思っていました。この山を知り尽くしているからです。

私たちはゲームの話をしながら歩いていましたが、突然、通行止めの標識が立っているのを見つけました。これまで見たことのない道で、標識も見覚えがありませんでした。慌てて戻ろうとしましたが、戻れども知らない風景が広がっていました。「え~!ここどこ?」とタケシが泣きそうになりました。私たちは取り敢えず、夕日の方向に歩き始めました。

やがて夕日に向かって歩くと、すぐに道路に出ました。

私たちはそれぞれの家に向かいましたが、私の家まであと少しのところで、タケシが物凄い勢いで走って来ました。タケシの家で葬式が行われていると聞き、私は彼を連れてタケシの家に行きましたが、家の前には誰もおらず、家には入れませんでした。

私の家に帰ると、父が怒っていました。私とタケシは2日間行方不明だったそうです。私が語った事情は信じられず、タケシの家で葬式があったという話も否定されました。

その後、一ヶ月間外遊びが禁止されました。謹慎処分が解けた後、タケシと再び山に行きましたが、あの道路標識はどこにもありませんでした。私たちが体験したことは、一体何だったのか、未だに謎のままです。

関連記事

外でお経を読むこと

一応これでも修験道の行者をやっています。お寺と師弟関係を結び、京都にある某本山で僧籍を持っています。 そんな私が駆け出しの頃に体験した怖い話です。 やはり修行をしていますと…

縁側

ずれた世界

私が小学校に上がる前の夏の終わり頃の話です。田舎にある母方の祖父母の家で、昼寝をしていました。目が覚めたとき、喉が渇いていることに気づきましたが、同時に何かがおかしいと感じました。何…

灯篭流し(フリー写真)

灯籠流し

小学生の頃、よくH瀬村と言う山奥にある村に遊びに行っていました。 毎年夏になると、写真好きの父に連れられて村を訪れ、村外れにある川で泳ぐのを楽しみにしていました。 私が小…

ドッペルゲンガー

弟のドッペルゲンガーを2回見た。 1回目は自分が3歳の時。 実家は庭を挟んで本宅と離れがあるんだが、庭の本宅寄りの場所で遊んでて、そこから家の中が見る事が出来た。 居間で母が…

公衆電話(フリー写真)

鳴り続ける公衆電話

小学生の時、先生が話してくれた不思議な体験。 先生は大学時代、陸上の長距離選手だった。 東北から上京し下宿生活を送っていたのだが、大学のグラウンドと下宿が離れていたため、町…

前世記憶がある俺の話

まず、前世の記憶と言ってもしっかりとはしていない。 生まれた時から記憶が全てあるとか、そういうものではないという事は前提で聞いて欲しい。 ※ 始まりは小学校だった。その頃から…

医師(フリー写真)

夢の中の治療

俺の従兄弟の話を一つ。 非常に仲の良い従兄弟が、25歳の時に末期がんになった。 人間として凄く見応えのある人物だっただけに、身内一同とても落胆した。 従兄弟には当時付…

林

山の女の子

昔、私が小学3年生のとき、毎年夏になると両親は私を祖母の家に連れて行っていました。その町は都心から離れたベッドタウンで、まだ発展途上の田舎でした。周囲は広い田んぼや畑、雑木林が広がっ…

私はアリス

信じてもらえないかも知れない。 でも当人が一番混乱してるんだ。ちょっと長くなるけど聞いてくれないか。 家に帰ったら母親が風邪で寝込んでいた。甲斐甲斐しく世話をする俺。まあ、…

チクリ

大学に通うために上京してすぐのことです。 高田馬場から徒歩15分ほどにある家賃3万円の風呂なしアパートに下宿を始めました。 6畳でトイレ、キッチン付きだったので、その当時と…