
これは、あるクレーマーの家系にまつわる、恐ろしくも哀しい話である。
私が働いている店舗によく来るクレーマーがいるのだが、その人物について町中に広まっている噂を耳にしたとき、あまりの内容に背筋が凍った。
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その家系の不幸は、本人の父親の事件から始まったという。
学生時代のある日、父親が突然発狂し、なんの前触れもなく母親を刺し殺した。
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さらに衝撃的なのはその後である。
父親は刑務所に入る前、自らの車を使って頭部を轢き、自殺を遂げたのだ。
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残された子どもたちは、祖母の手で育てられることになる。
だがその祖母も、ある日突然「大量の河原の石」を飲み、自ら命を絶った。
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さらに奇妙なことに、祖父はその祖母の遺体を葬式の前に自宅の庭に埋葬。
ところが数日後、祖母の遺体を掘り起こし、なんとその腕の一部を食べたというのだ。
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祖父はすぐに精神病院へと入れられた。
残された子どもたちは、クレーマー本人を含め、姉と弟の三人で親戚の家に預けられることになった。
しかしその親戚も常軌を逸していた。
ある台風の日、叔母が弟を海へ投げ込み、命を奪ったという噂が残っている。
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その後、姉は心を病み、言葉も感情も失ったまま、廃人のようになってしまった。
本人も精神の均衡を保つのが難しくなっていったらしい。
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だが、この家系の異常はそれだけでは終わらない。
戦後において、この家系で他殺や自殺以外の死因で亡くなった親戚たちは、ほとんどが糖尿病で命を落としている。
さらに恐ろしいのは、糖尿病により体のいずれかの部分が壊死し、切断を余儀なくされたという共通点だ。
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現在存命している親戚のすべてが糖尿病を患っており、例外なく左右いずれかの脚を切断して生活しているという。
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この話を聞いたとき、最初に頭に浮かんだのは「呪われた家系」という言葉だった。
非科学的かもしれないが、これほどまでに連鎖する不幸を見ると、そう信じたくなる。
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だが、冷静になって考えれば、もっと恐ろしいのは、こうした深刻な個人の背景や悲劇が、町中に知れ渡ってしまう田舎特有の「閉じられた社会」なのかもしれない。
誰もが知っていて、誰もが口に出さず、しかし皆が噂話の続きを待っている。
この話が真実なのか、それとも誇張された都市伝説なのか──。
判断は読者に委ねるが、私にとっては今もなお、心の奥に重く沈んでいる話の一つである。