家族

公開日: ほんのり怖い話

1-C-KAK154

俺の職場の先輩の話。面倒見がいいし、仕事もすごいってほどじゃないけど正確で取引先からも指名で仕事が来たりする。

ただ、ちょっと困ったとこは異様に家族のことを大切にしてること。

奥さんや娘さんのことを話し出すと止まらなくって、休日明けなんかは家族となにをやった、どこへ行ったってことを写真を見せびらかして話してる。

それだけならいいお父さんで済むんだけど問題は奥さんと娘さんが 既に他界されてること。

それ以外は本当に頼りになる人で、仕事にも支障がないからみんなそこには触らないようにしてすごしてる。

で、いつぞやの忘年会のこと。

その年は割とデカイ仕事が成功したこともあって、忘年会はかなり豪勢だった。

先輩もいつになく上機嫌で普段は絶対にしない深酒をして、終いには歩くどころか、いすに座ってるのもままならないことになってた。

そんな状態だから一人で返すわけにもいかないけど、先輩は家族が待ってるからと、帰るといってきかない。

しかたなく社長命令で俺ともう一人の同僚で送っていくことになった。同僚は下戸で車に乗ってきていたので、その車で先輩のうちまで行くことになった。(本当は同僚だけが送っていけといわれたのだけど、見捨てられずついていった) 。

先輩はどっから見ても酔いつぶれてるってのに、いつの間にか持ち帰りを頼んでて、 それをしっかり抱えてたのを覚えてる。

先輩の家につくと、当たり前なんだけど家の中は真っ暗。いくらか回復してた 先輩は「もう寝ちゃってるなー」といって笑った。

お茶くらい出すからというのを、とっくに日付も変わってるしと断っているとトタタタタタ ガチャ 玄関が開いた。

「なんだー、起きてたのか。お土産あるぞー」と、どこか嬉しそうな先輩。

真っ暗な家に入っていく先輩に俺らは、それじゃといって車に乗り込んだ。 車の中でガチガチ震えてる俺ら。

「……なあ、先輩は、なにと住んでるんだ?」

今でも先輩は、誰も写ってない奥さんと娘さんの写真を見せてくれる。

関連記事

温泉街(フリー写真)

山宿の怪

先日祖母の法事があり、十数年ぶりに故郷の山奥の町に帰りました。 法事の後で宴会があり、そこで遠縁の爺さんに面白い話を聞いたので書いてみます。 爺さんはその町から更に車で一時…

森(フリー写真)

色彩の失われた世界

俺がまだ子供の頃、家の近所には深い森があった。 森の入り口付近は畑と墓場が点在する場所で、畦道の脇にはクヌギやクリの木に混ざって、卒塔婆や苔むした無縁仏が乱雑に並んでいた。 …

女性のシルエット(フリー素材)

赤の他人

俺は物心付いた時から片親で、父親の詳細は判らないままだった。 俺は幼少期に母親から虐待を受けていて、いつも夕方の17時から夜の21時まで家の前でしゃがみ込み、母親が風呂に入って寝…

朝日(フリー写真)

幽霊と酒

母の同僚のおじさんが釣りに行った時のこと。 朝早く車で出掛けて行き、朝日が昇るまで車の中で焼酎を飲んで暖まっていた。 いつもは待ち時間用の小屋みたいな所で過ごすのだけど、そ…

尾崎豊さん

私の部屋にはよく夜中に霊が来ます。その時は必ず透けて見えます。 たまに映画のスクリーンのようにその霊にまつわるだろう景色も一緒に見えるのですが、何年か前にある男の人が現れました。…

良い心霊写真

写真店のご主人から聞いた話ですが、現像した写真におかしなものが写り込む事は珍しくなく、そういったものは職人技で修正してお客さんへ渡すそうです。 このご主人ですが、一度だけ修正せず…

夜の繁華街

赤い服の男

かつて私が所属していたサークルの公演が終わったある夜、私たちは近くの居酒屋で打ち上げをしていました。 公演の開始時間が遅かったため、打ち上げが終わる頃には時計の針は既に午前一時…

何かの肉塊

僕が小学生の頃なので、もう20年くらい前になるのか。 母方の祖母(大正生まれで当時60歳)から聞いた話を思い出した。 祖母がまだ若かった頃、北海道の日本海側の漁村に住んでい…

もっさん

うちの病院のカテーテル室(重症の心臓病患者の処置をする場所)には、もっさんと呼ばれるものが出る。 もっさんは青い水玉模様のパジャマを着ており、姿はぼさぼさ頭の中年だったり、若い好…

習字道具(フリー写真)

カナエちゃん

友人のカナエちゃんの話です。 彼女は、小学校時代に習字教室に通っていました。 そこは子供の居ない老夫婦が二人でやられていた教室で、近所の小学生が多く通っていました。 …