道を教えて下さい

夕方の路地

「道を教えて下さい」

夕方の路地でそう話し掛けてきたのは背の高い女だった。

足が異様に細く、バランスが取れないのかぷるぷると震えている。

同じように手も木の枝のように細く、真っ赤なハンドバッグをぶら下げている。

はあはあと何度も溜め息なのか呼吸なのか分からない息を吐き、僕に道を訊いているはずなのに視線は全く違う方向を向いている。

「あ…あの。どちらへ…?」

やばい人っぽい。

僕は早く答えて立ち去ろうと思った。

「春日谷町1-19-X-201」

「………」

そこは僕のアパートの住所だった。

部屋番号までぴったりと合っていた。

「し、知りません」

僕は本気で関わり合いたくないと思い、そう答えた。

すると女はゴキッと腰が折れ曲がるほどにお辞儀をして、またふらふらと路地の奥へと消えて行った。

関連記事

チャイムが鳴る

ある蒸し暑い夏の夕暮れ時、俺は自宅の2階で昼寝をしていた。 「ピンポ~ン、ピンポ~ン」 誰か来たようだ。俺以外家には誰もいないし、面倒くさいので無視して寝ていた。 「…

遺言ビデオ

会社の同僚が亡くなった。 フリークライミングが趣味のKという奴で、俺とすごく仲がよくて、家族ぐるみ(俺の方は独身だが)での付き合いがあった。 Kのフリークライミングへの入れ…

顔だけにモザイク

小学校くらいに友達から聞いた話なんだけど、ちょっと思い出したので書いてみる。 ある男を仮にAとさせていただきます。 Aがレンタルビデオ屋でビデオを借りてきて、家に帰って早速…

ピンポンダッシャーズ

昨年の夏の夜、月に2、3回、22時から23頃にピンポンダッシュされてた。 初め怖かったけど実害ないし、窓から見下ろした複数の後ろ姿は中学か高校生ぽくて、いい年してなにやってんだと…

霊感テスト

自分自身に霊感が備わっていながら、それに気が付いていない人も意外と多い。 あなたには霊感があるだろうか?今回はそんな霊感をチェックするための簡単なテストをご紹介しよう。 は…

リゾート(昼)

リゾートバイト(前編)

これは夏休みも間近に迫った大学3年生の頃の話。 大学の友人の樹と覚、そして修(俺)の3人で、海に旅行しようと計画を立てたんだ。 計画段階で、樹が「どうせなら海でバイトしない…

木造アパート

挨拶の大切さ

友人のアパートを訪れた日、私は商店街の裏にある彼の住む建物へ行きました。 そのアパートの一階には共同のトイレがあり、友人の部屋は一階の一番奥に位置していました。 夜遅くま…

カンカン(長編)

幼い頃に体験した、とても恐ろしい出来事について話します。 その当時私は小学生で、妹、姉、母親と一緒に、どこにでもあるような小さいアパートに住んでいました。 夜になったら、い…

病院(フリー背景素材)

宿直のバイト

数年前、大学生だった俺は、先輩の紹介で小さな診療所で宿直のバイトをしていた。 業務は見廻り一回と電話番。後は何をしても自由という、夢のようなバイトだった。 診療所は三階建て…

夜のビル街(フリー写真)

呻き声

俺のツレはいわゆる夜中の警備のバイトをしていて、これはそのツレにまつわる話。 ある日、そいつが言うには、 「何かさ、最近、バイト中に鳴き声がするんだよな」 「まあ、近…