見知らぬ子ども

公開日: 心霊体験 | 怖い話

見知らぬ子ども

Sさんには二人の子どもがいる。
上は幼稚園に通い始めたばかりの息子さん、下はまだ3歳の娘さんだ。

新築の家を建てる際には、それぞれの子ども部屋も用意した。
だが今のところ、その部屋が実際に使われたことは一度もない。

というのも、子どもたちは「一人で寝るのが寂しい」と口を揃えるため、結局は夫婦の寝室に布団を並べ、家族四人で眠っているのだ。

その夜も、Sさんは子どもたちと並んで、いつも通り布団に入っていた。

ふと、部屋の扉がわずかに開く音で目が覚めた。

体は横たえたまま、Sさんは首だけを起こして扉を見やった。

きっと、夜更かしをしていた夫が寝室に戻ってきたのだろう――そう思った。

だが、扉の隙間から見えたその姿は、明らかに小さかった。

廊下の間接照明を背に受けて、その小柄な影は逆光に沈み、ぼんやりと陽炎のように揺れていた。

「〇ちゃん?」

Sさんは、それが娘だと思った。

一人でトイレに行き、戻ってきたのだろう、と。

「えらいね。こっちにおいで」

そう優しく声をかけて、再び枕に顔を埋めた。

すぐに、小さな足音が部屋の中に入ってくる気配がした。

Sさんは布団の端を少し持ち上げてやる。

するり――。

その小柄な体は、まるでためらいもなく布団の中にもぐり込んできた。

Sさんはうっすらと目を開けた。

自分の布団に入ってきた「娘」を、もう一度確認するために。

だが、その瞬間、ある違和感に気づいた。

「……洋服を、着ている?」

目の前に横たわる小柄な背中は、洗いざらしの白いブラウスに、肩紐付きのスカートを着ていた。

肩口で切りそろえられた髪は、ところどころ束になっており、皮脂と垢で汚れていた。

髪の隙間からうっすらと見える首筋も、黒ずんでいる。

全体的に、古くなった油のような匂いがしたという。

Sさんの娘は、毎日お風呂に入り、寝る前にはきちんとパジャマに着替えている。

それに――この子は大きい。

どう見ても、小学生くらいの体格がある。

Sさんは驚いて身を起こし、背後を振り返った。

そこには、3歳の娘さんが、穏やかな寝息を立てて眠っていた。

では、今、自分の布団に入っているこの子は――誰なのか。

その瞬間、Sさんの体は金縛りに遭ったように動かなくなった。

見知らぬその子どもが、ゆっくりと寝返りを打ち、Sさんの方へ顔を向けようとしている。

Sさんは目を閉じ、心の中で必死に念じたという。

――ごめんなさい。
私は、あなたのお母さんにはなれません。
私には、ここにいる二人の子どもだけで精一杯なんです。

そう、何度も何度も繰り返し唱えた。

そして、そっと目を開けると――

その子どもは、もうそこにはいなかった。

以後、その「子ども」が布団にもぐり込んでくることはなかった。

だが、しばらくの間、夜中の廊下やトイレで、その姿を見かけることがあったという。

しかしSさん一家が、室内犬を飼い始めてから、

その子どもは、ぱたりと姿を見せなくなったのだという。

まるで、何かに追い払われたかのように。

関連記事

しりとりをしてみようか

ずいぶん昔の話。 ラジオ番組の録音を聴きたくて、友達にカセットテープを借りた。 お目当てのラジオ番組を聞き終わったものの、いちいち停止ボタン押すの面倒で、テープが最後まで再…

俺の住んでいるマンション

大阪市西区の駅近マンションに引っ越した当初の事。 駅まで徒歩5分、コンビニまで1分くらいなのに家賃3万円。 おかしいと思ったけどとりあえず便利だから住むことにした。 …

死刑執行スイッチ

最近、とある悪戯サイトが流行っているそうだ。 ネットを巡回している時に、見慣れないリンクがある事に気が付く。 何気にそのリンクを踏むと、薄暗いコンクリートの部屋の真ん中に、…

霊柩車

Kさんという若い女性が、両親そしておばあちゃんと一緒に住んでいました。 おばあちゃんは元々とても気だての良い人だったらしいのですが、数年前から寝たきりになり段々偏屈になってしまい…

河原(フリー写真)

手を振る人形

2008年8月の終わり頃、一週間ほど夏休みが取れたので兵庫県の実家に帰省しました。 ある日、叔父(父の弟)に頼まれた簡単な仕事の手伝いを終え、二人車で帰路に着きました。 時…

瀬泊まり

小学校の頃、キャンプで夜の肝試しの前に先生がしてくれた怪談。 先生は釣りが好きで、土日などよく暗い内に瀬渡しの船に乗り、瀬に降り立って明るくなり始める早朝から釣りをしていたそうな…

幽霊と…

5年ぐらい前、地方都市でホステスをしていた時の話。 一緒に働いている女の子で、自称霊感の強いMちゃんという子がいた。 最初は信じていなかったのだが、Mちゃんが「明日は外出し…

神社の鳥居(フリー写真)

隠しごと

人混みに紛れて妙なものが見えることに気付いたのは、去年の暮れからだ。 顔を両手で覆っている人間である。ちょうど赤ん坊をあやす時の格好だ。 駅の雑踏のように絶えず人が動いて…

幽霊ホテル

今から20年近く前の話です。 高校を中退した私は、アルバイト三昧の生活を送っていました。 学力至上主義の進学校に通っていたので、それまでの友人達との縁は完全に切れ、バイト先…

浜辺(フリー写真)

小人の石

小学生の頃、俺の家族は青森の海沿いの田舎に住んでいた。 俺は幼い頃からよく浜で遊んでいたのだが、年末の1週間は夕方に浜で遊ぶのは禁止されていた。 だが小学3年生の大晦日、…