曇りガラスの人影が先に帰る
引っ越して三日目から、私は玄関で「ただいま」と言うようになった。夕方7時12分、台所との境の引き戸に曇りガラスの人影が橙色に灯る。それは前の住人の帰宅なのか、そ…
引っ越して三日目から、私は玄関で「ただいま」と言うようになった。夕方7時12分、台所との境の引き戸に曇りガラスの人影が橙色に灯る。それは前の住人の帰宅なのか、そ…
亡くなった祖父が夢の水族館へ連れて行く夜。証明写真に並んだ見覚えのない二人。崖でナイフを押さえた手。怖さより温かさが残る心霊ちょっと良い話を14本選び、夢・かた…
深夜三時に来る目薬の常連と呼んでいた女性が、ある夜を境に姿を消した。彼女はいつも静かで、丁寧で、同じ三品を買っていた。一ヶ月後、俺の電話が毎晩三時二分に鳴り始め…
ロープアクセスの現場で、ロープは二本と決まっている。それなのに上で私を見ている相方だけが、代わる代わる三本目のロープを見たと言って現場を離れていった。私には一度…
地下二十二メートルの立坑の底で、巻尺の目盛りが送られるような乾いた音が日ごとに数を増していった。掘り当てた古い石組みは止め井戸と呼ばれ、水を張って何かを留めてお…
平成十二年の冬、東北の山奥の湯治宿で湯守をしていた男が語る怖い話。引いてはならないと言われた留め湯が業者に持ち出された朝から、源泉の温度計も脱衣所の鏡も深夜の廊…
山の送電線を巡視していた頃の、忘れられない怖い話。無風なのに低く鳴る索道のワイヤー、下草に残る一列の跡、そして梢に腕だけで懸かるもの。姿を消した先輩が谷に残した…
これは録音の仕事で出会った怖い話。昭和六十三年の夏、廃鉱の飯場跡で、深夜番組のために一晩ぶんの無音を録ることになった。地下へ降りる階段は十三段。だが朝、上がって…
昭和の終わり、測量助手の私は山を案内する老人に従い、忘れられた墓を拾い歩いていた。だが帰りの風の無い窪地で、宙にぶら下がる人型のものと、土の下から湧く得体の知れ…
平成のはじめ、消えゆく山あいの集落で子守唄を集めていた学芸員が、霧降りの森の奥で出会った怖い話。還された子らの泣き声が霧のなかから人を招き、帰り道を惑わせる。土…
昭和の山あいの町の古い映画館で住み込みで働いた二十歳の娘が出会った、不思議な話。閉館後の誰もいない客席から、夜ごと大勢のゲラゲラという笑い声が響く。ある晩そっと…
昭和の終バスを任された若い運転手が体験した、不思議な話。無人のはずの峠の停留所で乗せたのは、藍色の着物の女だった。湖の底に沈んだ村へ帰りたいと言う客を乗せ、走っ…
先輩から聞いた禁忌を寮の湯小屋で試した夜、それは来た。お祓いでも離れず、三年にわたり憑かれ続けた男の実話風の怖い話。偽の拝み屋の末路、老師が最後に遺した手紙の警…
谷あいの古い温泉宿に伝わる不思議な話。雨の晩にだけ濡れて戻る離れの鍵と、夜の渡り廊下を渡っていく塗り下駄の音。仲居として四十二年勤めた私が最後の秋に見たのは、閉…
昭和のダム計画で、水に沈む村を一軒ずつ調べていた私たちは、外れの溜池にある、触れてはならない古い石蓋を起こしてしまう。やがて主任は知らぬ名を点呼のように呼び始め…
雪深い町で運転代行を三十年続けてきた私が、ある二月の底冷えする夜に乗せた、古めかしい白髪の老人。久しく動かぬはずの古い車、峠の奥にともる門灯、握らされた古い紙幣…
岐阜・飛騨の山あいに残る旧高山本線の廃トンネル跡で起きた不思議な話。元保線員から聞いた、走らない最終便と紙の上にだけ残った時刻表。鉄道ライターが体験した一夜の実…
引っ越した翌月から、毎晩午後11時に隣の部屋からピアノの音が聞こえてくる。でも管理会社に確認すると、その部屋は2年前から空室だと言う。そして朝、部屋の内側に一本…
地域誌のカメラマンが取材で訪れた廃館前夜の映画館で、最後列に座る着物の老婦人を目撃する。客が全員帰ったはずの劇場で、床に落ちていた古い半券に書かれた映画のタイト…
新幹線運休の振替で乗った夜行バスの最後列。消灯後、隣席に「酔ってしまって」と座ってきた女性。サービスエリアで降りた彼女は戻らず、運転手は最後列はあなた一人ですと…
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