きらきらさん

dodge_dart___pure_art_by_nazardud-d500t4o

差し障りがあるといけないので、時と場所は伏せて書きます。

そこの施設内で、度々動物の惨殺死体が発見されるのです。

そこにいた子供に聞くと「きらきらさんがやった」と言います。

「きらきらさんってなに?」と聞くと両目を両手で隠し「しらない」としか言いません。

そこの職員も「きらきらさん」が何なのか、さっぱり分からず不気味に思っていました。

ある日、施設内の庭に子供達を連れ出した時、私と手を繋いでる男の子が小さく「あっ」と声を漏らし「きらきらさんだ」と言って、青空の一点を見つめました。

私も空を見つめましたが何も見えません。

ふと気がつくと、他の子供達も徐々に「きらきらさん」に気がついたらしく、ひとり、またひとりと空を見上げ、結局その場の子供達全員が同じ空の一点を見つめているのです。

「きらきらさん」に向かって、にこにこ手を振っている子もいます。

とても晴れ渡った明るい昼下がりに、突然起こったこの不安な静寂に耐え切れず、私は手を繋いでいた男の子の前にしゃがみこみ「なんにも見えないよ? きらきらさんってなんなの?」と問いかけました。

するとやはり、両目を両手で隠し「しらない」というのです。

私は彼の両目を覆っている両手を外し「私も知りたいなー。教えてよ」と言いました。

すると、その子はいきなり、両手の人差し指を思い切り突き出し私の両目を衝こうとしたのです。

驚いて尻もちをついたので、その攻撃を避けることができましたが、今度はその突き出した両手の人差し指を、同じ勢いで、何の躊躇いもなく彼は自分の両目に突き刺したのです。

あまりのことに我を忘れて私は彼に飛びかかり、押し倒し、さらに力を込めて自分の目にねじ入れようとしている小さな両手を必死に押え「だれかっ!だれかああぁあ!!たすけてったすけてぇぇぇ!!!」と絶叫していました。

子供とは思えないような力でした。

私と揉み合う内に、彼は自分を取り戻したのでしょうか。

不意に「目が痛いよーーー!!痛い痛いよーー!」と泣き出しました。

まるで今ケガに気がついたように。

すぐに病院に連れて行き、失明を免れることはできましたが、後遺症は残ってしまいました。

私は今まで、この体験は集団ヒステリーのようなものだと思っていました。

または空想の産物の共有みたいなことが起こっていたのかもと解釈していました。

しかし、時も場所も違うにも関わらず『ヒサルキ』という話が存在し、『きらきらさん』を体験した私がいる。

言葉を上手く操れない子供達は、得体の知れないものに対して勝手に名前を付け、親しんでしまうことがあります。

大人がある時ふと耳にする聞きなれない子供達の「造語」に立ち入ってはいけない場合があるのではないか…。

今になってそう思います。

関連記事

ヒサルキ

保育園で保母さんをやっている友達に聞いた話。 その子が通っている保育園はお寺が管理しているところで、すぐ近くにお墓があったりする。 お墓に子供が入って、悪戯をしないように周…

兄弟(フリー写真)

兄が進む道

私の兄は優秀な人間でしたが、引き篭もり癖がありました(引き篭もりという言葉が出来る前のことです)。 生真面目過ぎて世の中の不正が許せなかったり、自分が世界に理解してもらえないこと…

病院

病院の空白

私は2年前まで看護師をしており、今は派遣事務の仕事に就いています。看護師時代は17、18時間の長時間勤務が当たり前でした。 ある日の二交代勤務中、朝7時半に病院の通用口を通り抜…

階段

神秘的なお姉さん

これは友達から聞いた話ですが、その友達は嘘をつくような子ではないので、実話であると確信しています。 話は、友達が小学生の頃の出来事です。地元の行事で、四年生の女の子たちが神社で…

トンネル

霧島、消えた駅

これは一昨日の夜に体験した出来事です。私はいつも通り、都会から田舎の自宅へ帰るために最終電車に乗りました。この日は友人と遅くまで飲んでいたため、21時頃には出るはずが大幅に遅れ、埼玉…

満月

ファンの悲哀

昔、私はある役者の熱狂的なファンでした。彼が出演するすべての作品を見るのはもちろん、関連する雑誌も買い集めていました。しかし、彼はある日、病気のために休養を余儀なくされ、そのまま亡く…

田舎の風景

神隠しのお姉さん

小学二年生の頃の話です。僕は、小さな頃に母を亡くし、父に育てられた父子家庭で育ちました。 そのせいか、性格は内向的になり、小学校ではひどいいじめに遭っていました。一年生の頃から…

抽象模様(フリー画像)

ヤドリギ

あまり怖くなかったらすまん。ちょっと気になることが立て続けにあったんで聞いて欲しいんだ。 自分は子供の頃からオカルトの類が大好きでな、図書館などで読んでいたのは、いつも日本の民話…

御業(ゴギョウ)様

俺がまだ小学生だった頃、母方のじっちゃんの田舎で体験した洒落にならない話。 口止めされていたけど、もう爺ちゃんが他界して十年くらいになるから話す。関わりたくない人は、読まない方が…

白い犬(フリー写真)

おかげ犬

知り合いが体験した話。 とある鄙びた峠道を歩いていると、いつの間にか犬が一頭、後をついて来る。 痩せた白い体毛の犬で、首には大きな風呂敷包みを提げている。 彼の方を…