一瞬の異界体験
その頃、私は一人暮らしのアパートに住んでいました。ある日、母から頼まれた回覧板を隣の部屋に渡しに行きました。
手早く回覧板をポストに入れた後、自分の部屋に戻りました。しかし、ドアを開けるとそこは明らかに私の部屋ではありませんでした。部屋は別の何か別の世界のようでした。
しかし、ドアの番号を確認すると、間違いなく自分の部屋の番号です。不安を感じつつ、「こんばんはー」と声をかけてみました。
すると、見知らぬボサボサ頭のおじさんが「はーい」と返事をして、部屋から出て来ました。その光景に驚き、「間違えましたー」と慌ててドアを閉めました。
その後、再び部屋の番号を確認しましたが、書かれている苗字も隣の部屋も、間違いなく私の部屋と隣の部屋でした。
「あれぇ?」と思いながら再びドアをそっと開けてみると、今度はいつもの我が家の風景がそこには広がっていました。ボサボサ頭のおじさんの姿もありませんでした。
これが私がこれまでに経験した唯一の不思議な体験です。あの日見たものが何だったのか、今でも時々思い出しては、ぞっとします。